第156話:森の来訪者

「ソウ!あけみ姉さんこっち来てるか!?」

「こっちには来てないみたい!あっ。ツネの方に行ってる!」

走りながらかけられる重清の声に、聡太がレーダーに目を向けながらそう答える。


「よし!」

「いや、よしって。ツネが可哀そうだよ。」


そんな会話をしている2人は現在、キャンプ場近くの森を駆け回っていた。

しかしそれは、重清と聡太だけではない。


シン、ケン、そして恒久も、同じように駆け回っている。


それはもちろん、覗きをしたのを見つかり、『何嫌の術』に慣れてきたあけみ姉さんに追われているからなのである。

なお、ノブは既に茜と麻耶に捕まり、現在見るも無残なほどにボコボコにされているとかいないとか。


それはさておき。


「でもよく考えたら、いくら逃げても帰る時には絶対にみんなと合流するよね!?

どう考えてもぼくら詰んでない!?」

「あ。」


聡太の言葉に、重清の足が止まる。


「それもそうだな。無駄に逃げずに、潔く投降したほうが―――」

「ガサガサッ」


重清が諦めの言葉を呟いていると、2人の近くの茂みから物音が聞こえてくる。


「えっと・・・ま、まさか、熊、じゃないよな?」

「あははは。まさか。ノリさんだって、この辺にはもう熊はいないって言ってたし・・・」

重清と聡太が、茂みに目を向けながら囁やき合っていると、茂みから何者かが姿を現した。


「虎、かな?」

「シゲにもそう見える?やっぱりあれ、虎、だよね?」

そう言って見つめ合った2人は・・・


「「いやいやいやいや!!!」」

虎を背に、そのまま走り出す。


「意味わかんねーよっ!何で虎がここにいるの!?」

「ぼくだって分からないよっ!っていうかシゲ!そんなに大声出したら・・・」

聡太はそう言いながら虎の方をチラリと振り向くと。


「ほらぁ!!追ってきたぁ〜〜〜っ!!」


(重清!私達を出しなさいっ!)


「っ!?チーノ!?わかったっ!」

虎から逃げながら、重清はチーノの言葉に従いチーノとプレッソを具現化させる。


「プレッソっ!いくわよっ!」

「オッケイっ!!」

チーノの合図と共に、プレッソとチーノはそのまま虎へと向かっていき、そのまま金の力を纏った爪で虎を引き裂いた。


「ちょっ、2人とも!いくら危なかったからって、いきなり何を―――」

「重清!今のはおそらく具現獣よっ!」


「はぁっ!?」


チーノの言葉に重清達が虎へ目を向けると、引き裂かれた虎はグロ映像を見せることなくそのまま霧となって消滅するところであった。


「ほ、ほんとに具現獣!?もしかして、あけみさんの!?」

「いいえ聡太。アケは武具の具現者よ。虎なんか具現化できないわ。」

聡太の言葉に、チーノが首を振って答えていると、


「おいお前等っ!ゆっくり話してる場合じゃなさそうだぞっ!」

プレッソが周りを気にしながら重清達にそう声をかける。


その声に重清達が周りを見渡すと。


「また虎。それにサイに、イノシシに、ライオン!?

いやいや。ここ、動物園でも近くにあるの!?」

重清が叫んでいると、


「みんな具現獣よっ!みんな、ひとまずノリの所に逃げなさいっ!私は他に逃げてる子達を探すわっ!」

チーノはそう言って、ライオンから振り下ろされる爪を掻い潜り、そのまま森の中へと駆けていった。


「ソウ!ノリさんに連絡っ!」

「っ!?ダメだっ!何でかわかんないけど繋がらないっ!」

「マジかよっ!」

重清達は、ゆっくりと迫ってくる動物たちからジワリと離れながら話していると、サイが重清目掛けて突進してくる。


(雷纏の術っ!)

咄嗟に術を発動した重清は、サイの突進を避けて聡太に叫ぶ。


「ソウ!ここはおれが食い止めるから、ノリさんと合流してくれっ!おれなら、いざとなったらこの術で逃げられるっ!」

「でっ、でもっ!!」


「頼むっ!!」

「っ!?わ、わかった!シゲ!お願いだから無茶しないでねっ!」


「分かってる!!」


重清の言葉を聞いた聡太は、重清と視線を合わせて頷き、そのままその場を走り去る。


聡太が見えなくなって安心した重清は、迫る動物たちの攻撃を避けながらプレッソに声をかける。


「プレッソ!こいつらと話せないのか!?」

「話しかけてはいるんだけどよっ!こいつら、なんか意識なさそうなんだよっ!!」


「クソッ、やるしかないのか!プレッソ、銃化だっ!」

「オッケイ!!」


(具現獣銃化の銃っ!)


重清が銃を発動すると、プレッソの体が光となって重清の手元へと集中し、直後に重清の手元には猫銃・マキネッタが現れる。


「どんな理由か知らないけど、みんなゴメンな!悪いけど、具現者の元に戻ってもらうぞっ!!」


重清は弾丸の術を発動してマキネッタに弾を装填し、動物たちに向かって叫んで、引き金を引くのであった。

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