第6話:雑賀雅

「いつから、気付いていたの?」

平八に目を向けられている雅が、無表情のままボソリと言いました。


「君が、雑賀雅だと分かった時からさ」

平八は、そう言って雅に微笑みました。


2人はお互いに浮かべた表情を変えないまま、話し出しました。


「最初から、ってことね。良ければ理由を聞かせて。後学のために」

「昔聞いたことがあるんだよ。雑賀本家では、時期当主は15歳になると、当主の指定する標的を抹殺する。そうすることで当主として認められる、とね。そうでしょ?雑賀本家、時期当主の雑賀雅、ちゃん?」


「ちゃん、って、こんな時までふざけないでよ!あんたは、今からあたしに殺されるんだよ!?」

「2つ、訂正させてもらうよ?1つ、私は君には殺されない。そしてもう1つ。さっき君は、後学のためにって言ったね。でも残念。君に次は無い」


平八の言葉に、雅の顔に怒りの色が表れました。


「契約忍者ごときが調子に乗るな!」

雅がそう叫ぶと、雅から4色の忍力が溢れ出しました。


白、青、緑、赤の4色の忍力が、雅を中心に渦巻いていました。


「へぇ。普通我々忍者は、3つの忍力を使えるのがせいぜいなのに、それを4つ、しかも同時に扱うなんて。その年で、凄いね」

「あんた達とは出来が違うのよ!!」


「これは私も、本気でいかないとまずいね」

そう言って平八が向けてきた視線を受けた私は、頷いて一歩前に出ました。


「あ、いや、シロ。やる気満々のところ悪いんだけど、シロは手を出さないで欲しいんだ」


「「はぁ!?」」

私と雅の声が、重なりました。


「おや、2人とも双子みたいに声が揃ったね」

平八1人が、どこか楽しそうに笑っていました。


「平八!何を言っているの!?この子は、雑賀雅はあなたを殺そうとしているのよ!?」


「あんた何言ってんのよ!?あたしを馬鹿にしてるの!?」


私と雅が、それぞれ平八を責めるように叫びました。


「いや、2人ともそんなに怒ります!?」

それまで笑顔だった平八が、少し焦ったような表情を浮かべていました。


「シロ、私は彼女と、1対1でやりたいんだ。すまない。そして、みや・・・」

平八は雅に目を向けると、そこまで言って少し顔を赤らめて言葉を飲み、続けました。


「私は君を馬鹿にしているわけじゃない。シロにも言った通り、私は君とサシでやりたいんだよ。相棒のシロが出ると、2対1になっちゃうからね」

そう言って平八は、雅に笑顔を向けました。


「だったらいいわ!そのまま殺してあげるから!!」

そう言って雅が平八に向かていくと、


「だから、私は殺されるわけにはいかないんだって」

平八はそう呟き、次の瞬間、平八から大量の忍力が溢れ出てきました。


白、青、緑、赤、そして黄色の5色の忍力が、平八を優しく包み込んでいました。


何度見ても、私はその光景に目を奪われてしまう、それほどまでに、幻想的な光景。


「なっ・・・」

雅もその光景を目にして、平八へと向かう足を止めていました。


しかしそれは、単にその幻想的な光景に目を奪われたからだけではなく。


「5色・・・あんたまさか、全ての忍力を使えるというの!?」

雅が初めて、驚愕の声を上げました。


「驚いてもらえてなによりだな。これでも、結構苦労したからね」

「全ての忍力を使えるなんて忍者、聞いたこともないわ!あんた一体、何者なのよ!?」


「私は君の言う、ただの『契約忍者ごとき』だよ?他の人より、ほんのちょっとだけ、努力を惜しまないってだけ」

平八はそう言って笑っていました。


「ふざけたことを!でも、天才と呼ばれるだけのことはあるみたいね!」

「いや〜、天才美少女にそう言われると、流石に照れるね」


「でもね、使える忍力の種類だけが全てじゃない!それを証明してあげるわ!」

雅が、あからさまな程の負け惜しみを言いました。



この時のこの負け惜しみのことだけは、未だに言うと恥ずかしそうにするのよ、雅。

っと、話が逸れたわね。



雅の言葉に、平八が不満そうな顔で言いました。


「先に忍力を見せびらかしてきたのはそっちだよ?私はただ、やり返しただけ。でも、君の言うことには、賛成かな。じゃぁそろそろ、君の言う証明っていうのを、見せてもらおうかな」

平八が、雅に対して構えました。


これから殺し合うであろう2人を見ていた私は、不謹慎ながらも思いました。


やっぱりこの2人、お似合いだな、と。


緊張感のあるはずの場面でも飄々として話を逸らす平八。

そして、抹殺対象であるはずの平八が逸した話題にも、寄り添うように釣られる雅。


そんな2人がこれから殺し合うのかと思ったら、私は目を逸らしたい気持ちで一杯でした。


私の大切な、平八。

そして、いつの間にかこの私が、平八の隣りにいることを認めてしまうほどの力と魅力を持った雅。


でも、だからこそ私は、2人の行く末を見届けなければいけない。


そう思って私は、この2人の天才を、ただ見守ることにしました。

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