第7話:甲賀平八 対 雑賀雅
雅が、平八に向かって走りだしました。
平八がそれを迎え撃とうとした瞬間、雅の姿が霧となって消え、直後に平八の足元から金属の腕が出てきてその足を掴み、頭上から現れた雅が平八に踵落としを仕掛けました。
雅の踵が平八に触れたかと思うと、平八は炎へと姿を変えてそれを避け、そのまま雅から距離を取って元の姿へと戻りました。
しかしその時には既に雅から放たれていた複数の水の刃が平八を囲い、その全てが平八を四方から襲いました。
大量の水の刃がぶつかった事で出来た濃霧によって、視界がぼやけました。
少ししてその霧が晴れると、そこには土で出来た小さな小屋が建っていました。
ご丁寧に『鈴木』の表札までつけて。
すると、無駄なところにこだわる平八の土の小屋を締め上げるように大きな蔓が現れました。
そのまま少しずつボロボロとただの土塊となっていく小屋の一部が蔓の間がらこぼれ落ちていき、いよいよ蔓が小屋を潰そうとしたその時、小屋の中からいくつもの金属の刃が突き出してきて、蔓を引き裂いていきました。
そのまま蔓が霧散していくと、ボロボロになった土の小屋から、ボサボサの髪に沢山の土をかぶった平八が出てきました。
平八は、蔓のせいで曲がってしまった表札をわざわざつけ直し、雅へと向かい直しました。
それと同時に、平八の背後では小屋がただの土の山となり、そのまま霧散していきました。
わざわざ平八がつけ直した、表札もろとも。
今なら、確実につっこんでいるわよ。『表札つけ直す意味ないわよ!』って。でも、2人の術の掛け合いを目の前にした私には、そんな余裕はなかったわ。
雅はどれだけ術が防がれようとも、すぐに次の術を仕掛けていた。
そのスピード、そして術の練度には、驚かされたわね。
正直、私では勝てないと、素直に思ったわね。
方や平八は、わざわざ自分から後手に回って、雅が繰り出してくる術と相性の良い術を選択して雅の攻撃を防いでいたわ。
雅も、その事には気づいていたみたい。
後々その事を聞いたら、『あれだけは単純に腹がたった』って言っていたわね。
私、平八があそこまで強いとは思っていなかったの。
もちろん、平八の力が凄いことはよく分かっていたわよ?
でもね、力だけじゃないんだって、その時に気付かされたの。
命が狙われている状況においてなお、冷静に相手の術を見極め、さらに当時から既にかなりの数契約していた術の中から、適した術を選択するというその判断力。
平八の本当の意味での強さを、初めて目の辺りにした瞬間だったわね。
なんでそれまで気付かなかったのかって?
簡単よ。平八をそこまで追い詰める忍者に、私達は出会ったことがなかったもの。
その点、雅は違った。
平八が本気を出したの、多分あれが初めてだったと思うわ。
まぁ、あれが本当に平八の本気だったのかは、今でもわからないのだけれど。
ごめんなさい、話がまた逸れたわね。
話を戻すわ。
雅に向き直った平八は、どこからともなく
「何度それを見たと思ってるの!?それで巻かれたら、力が使えなくなるんでしょ!?そうとわかっていたら、わざわざ捕まるわけないじゃない!」
得意げに筵を手にした平八に、雅が叫びました。
「そのとおり。この術は、術を作るのが苦手な私が作った数少ない術。そして、その数少ない術の中でもさらに希少な、『シロに名前を褒められた術』なんだ」
「そんなの、知らないわよっ!」
少しだけ、雅が平八のペースに飲まれたように感じました。
それはそうでしょう。
おそらく雅には、平八が何を言っているのか訳が分からなかったのだと思います。
ごめんなさい。少しだけ補足をさせて。
この時に平八が言ったように、平八は自分で術を作るのがあまり得意ではなかったの。
それでも、いくつかの術を作っているのだから、十分に凄いんだけどね。
そのいくつか作った術のほとんどは、その、名前が、ね。
覚えてる?アケがキャンプの時に使った術。
そうそう、『
わかるでしょ?平八のネーミングセンスの無さ。
それに比べたら、重清のネーミングセンスは好きよ?
え?重清のセンスも大概?恒久、何を言っているの?
チーノって名前、素敵じゃない。
平八なんて、シロよ、シロ。もう、見たまんまじゃない。
なに、聡太?あ、そのときに平八が使った術の名前?
『
え?それも十分そのまんまな名前?
えぇ、そのとおりよ。でもね、他が酷い分、これでもマシだと思えるのよ。
私一時期、平八が私に『シロ』と名付けていなかったら、一体どんな酷い名前が付けられていたんだろうって、怖くて眠れなかったくらいだもの。
・・・はぁ。長年平八と一緒にいたから、私も十分脱線癖が染み付いちゃってるわね。
しかも、今のご主人様も、平八に負けず劣らず脱線するし、もう、一生治らないのかしら。
重清、ちゃんと責任取ってよね?
あら、顔なんか赤くしちゃって、可愛い。
でも、こんな幼い少女に顔を赤くするなんて、外では絶対にしないでね?
じゃぁ、話を戻すわね。
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