第461話:允行の独白 後編
湯川 湯治
忍名を
根来家は、私の調べた限りでは弟弟子達のうちの4人が興した家系では無かった。
おそらく、
とはいえ、湯治はその血を引いているわけではなく、根来の血を引く者の弟子であったようだった。
その師も既に他界しており、根来トウの存在を知るものはほとんどいなかった。
そのことも、彼と入れ替わった私には好都合であった。
私はこの長い年月の間に唯一契約することの出来た『変化の術』を使い、彼の姿に化けて教師の道を歩み始めた。
元々忍者であったトウの身代わりとなった私は、当たり前のように忍者部の顧問となった。
あの雑賀平八の作り上げた忍者部と言うものは、なかなかに面白かった。
しっかりと生徒達の力を見据えて作られたカリキュラムは、忍術を使うことの出来ない私には非常に助かった。
カリキュラム上は、中学生は心・技・体の基礎的な力を磨くこととなっていたからだ。
他の中学では、カリキュラムを無視して忍力の扱いにも力を入れているところがあったようだが、私は愚直にカリキュラムを守る教師を演じ、難を逃れていた。
それと同時に、私はトウの考えた男女1名ずつを入部させるという方法も取り入れた。
友であるトウの想いを叶えたいという想いもあったが、私には打算的な考えもまたあったことは否定しない。
才能を一切気にせずに入部させることにより、あわよくば私と同じ力を発現する者が現れることを期待したのだ。
私は常々考えていた。
この黒い力は、才能の無いものに現れるのではないかと。
しかし、何十年経ってもそのような者は現れなかった。
この力もまた、才能とは無関係なのだろうか。
その結論は、今もって出てはいない。
しかし、トウのあのアイデアは、私に全く別のものを残した。
私の受け持った忍者部出身同士の何人かが、結婚したのだ。
どうやらこれが、トウの言う『色々と面白い』ことだったのだろう。
確かに私の受け持っていた忍者部では、男女1人ずつを入部させたためか、その2人の仲が急速に近づいていたことには気付いていたが、それほど気にもかけてはいなかった。
そんな彼らは皆、結婚すると私に報告するばかりか、結婚式で挨拶をしてほしいとまで言ってきた。
彼らにとって私は、恋のキューピッドとか言うものらしい。
初めてそう言われ時には、なんとも言えない気持ちになった。
本来であればそれは、トウにこそ相応しいものなのだ。
それを私のような者に頼むなど。
しかし私は結局、彼らの願いを断ることなく受け入れた。
正直に言うとその頃には私は、教師というものの魅力に取り憑かれていたのかもしれない。
このまま教師として生き続けるのも悪くないのではないか。
私はそう考えるようになっていた。
雑賀平八が忍者協会の会長になり、忍者も次第に変わっていった。
このままいけば、忍者は父の理想とする組織へと変わっていくだろうと、思っていた。
あの男が現れるまでは。
天才と呼ばれた雑賀雅の再来とまで言われた雑賀
しかもその才能は、教育にも及んでいるようであった。
兵衛蔵の祖父にあたる雑賀
既に教師と協会長を引退していた雑賀平八の意志を継ぐのは兵衛蔵であると、誰もが口々に言っていた。
しかしあの男の思想は、雑賀平八のそれとは真逆のものであった。
絶対的な血の契約者優位思想支持者。
それがあの男の正体だった。
それに気が付いた私は、迷った。
せっかく雑賀平八が正しき道へと導いてきた忍者を、あのような男のせいでまた元の忍者に戻るのか。
それならばいっそ。
しかしその頃には教師として生きていた私が、この手を血に染めるのか。
その真っ赤に染まった手を、生徒達に差し伸べるのか。
だが、雑賀平八の引退と同時にまた不穏な動きを見せ始めた忍者を見ていた私は、結局は父の理想の実現のために動いた。
確かに雑賀兵衛蔵は天才と呼ばれるに相応しい才能を持っていたが、まだその才能は開花の途中であった。
今ならばまだ私でもどうとでも出来るだろうと、私は確信し、あの男を見張っていた。
そんな私を、更に衝撃的な出会いが待っていた。
甲賀ゴウと名乗る忍者だった。
その男は、あろうことか私と同じ黒い忍力を身に纏っていた。
それだけでも驚きであったが、その男、雑賀兵衛蔵を打ち負かしたのだ。
しかし雑賀兵衛蔵もやはり天才だった。
兵衛蔵は、黒い忍力に対抗する
ゴウと名乗る男との戦闘により満身創痍であった兵衛蔵を私は、この手で始末した。
事故に見せかけるために、車に乗っていたときを見計らって。
しかし、これで全てが上手くいくとも思えなかった。
雑賀平八の引退と共に再び元の思想に戻りつつあった忍者共に、私は不安を抱いていた。
だからこそ私は、甲賀ゴウをそのまま放置することにした。
もしも忍者がこのまま道を外すのならば、あの男には利用する価値が出てくると思ったからだ。
そしてその日から私は、生徒達の結婚式の招待を全て断った。
やはり、このような男が幸せの絶頂にいる彼らを祝福するなど・・・・・・
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