第431話:女子会仲間は天才の師
「はぁーーーっ!!」
茜は叫びながら、都へと向かって走り出した。
(ほぉ。なかなか速いねぇ。雅ちゃんに鍛えられているだけのことはある。だが・・・)
「猪じゃあるまいし、一直線に攻めすぎだよ」
都はそう言いながら、体の力を込めた茜の拳を片手で掴むと、そのまま茜を投げ飛ばした。
「まだまだぁっ!!」
しかし茜は、それに怯むことなく体勢を整え、再び都へと向かった。
「わたしは、ショウさんの隣に立てるくらいに、強くなるんだぁっ!!」
拳を振りかぶりながら言う茜の言葉に、都の目が光った。
「ちょ、その話詳しくっ!!」
都が、見事に茜の無意識の
都も乙女。
恋バナは、大好物なのである。
「隙ありぃっ!!」
そんな都に躊躇うことなく、茜はそう叫びながら都の顔面に拳を繰り出した。
「はっ!?」
ついつい大好物に食いついてしまった都であったが、これまでの長い経験が瞬時に都を正気に戻し、茜の拳を紙一重で避けた。
茜の拳に灯った炎が僅かに都の髪を焦がし、2人の間に焦げた匂いが立ち込めた。
「危ない危ない。まさか恋バナまで武器にするとは―――ぐっ!」
顔の横に伸びた茜の腕を掴みながら、都はそう言って声を漏らした。
突然衝撃の走った背に都が目を向けると、そこには小さな炎が僅かに残っており、その足元には消えかかった火に覆われた、1つの弾丸が転がっていた。
「これで一発、ですよね」
茜はそう言って、都へと笑いかけた。
一瞬呆気にとられた都は、
「あっはっは〜」
突然笑いだした。
「こりゃ、一本とられたね。あんたの様子から、私はてっきり接近戦だけを考えているかと思ったら、まさか
初めに、その炎を纏った時だね?」
笑いながらそう言う都に、茜は拳を引き、その体と拳に纏った炎を霧散させながら、
「はい!」
そう、笑顔を返した。
茜は、
そして、油断した都に、技の力で操った炎の弾丸を放ったのである。
「いや〜、本当に一発貰うとは思わなかったね。
ますますあんたが気に入ったよ。どうだい?私の弟子にならないかい?」
「ちょ、都様!茜はあたしの弟子っ!!」
突然茜をスカウトする都に、雅が慌てたように迫った。
「いいじゃないのさ。師が1人増えるくらい」
そう言いながら都は、機嫌良く雅に笑みを向けた。
「それにしても雅ちゃん、ちゃんと基礎から修行をつけているようだね。私はてっきりあんたのことだから、術の修行ばかりつけているんじゃないかと心配していたんだがねぇ」
「都様、まさかそれを確かめる為にわたしと?」
茜は、恐る恐る都の顔を覗き込んだ
「まぁ、それもあるかねぇ。もちろん、あんたに興味があったのも事実だがね。
でも、心配する必要はなかったみたいだね」
「当たり前です」
雅は強く頷いて、都を見返した。
「中学生の間は基礎力を鍛える。これは、あの人の考えたカリキュラムなんですから。
あたしの愛しい夫であり、貴方の弟子である、雑賀、いえ、甲賀平八の、ね」
「え、みーちゃん、それって・・・」
雅の言葉に、茜は驚いた表情で雅に目を向けた。
「まだ言っていなかったね。この人は、甲賀都様は、平八のお師匠様なんだよ」
「ふんっ!あんな、すぐに師匠である私を追い越していくような男、弟子だなんて言われたくはないねぇ」
都は雅の言葉に、照れくさそうな、そしてバツの悪そうな顔をしていた。
すると、そんな都に茜が頭を下げた。
「都様っ!わたし、いつかみーちゃんを、いえ、雅様を超える忍者になりたいんです!是非、わたしを弟子にしてくださいっ!!」
「ほっほっほ。術に関しては雅ちゃんに敵わないが、体の力には
そこで言葉を止めた都は、茜を鋭く睨んだ。
「普段は、私の言葉をミヤリンと呼ぶように」
(なーにがミヤリンだい。百を超えた婆さんが)
「雅ちゃん、何か言ったかい?」
「い、いえいえ、なんでもありませんよ、ミヤリン?」
「あんたにそう呼ぶことを許可した覚えはないがねぇ」
「えー、ダメよミヤリン!女子会の時に、『都様』なんて、固っ苦しくて嫌よ!」
雅を睨みつける都を諭すように、茜が言うと、
「こと女子会に関しては、あーちゃんの言うことは絶対です。あたしでも勝てないんですからね。諦めてください。ミヤリン?」
雅はニヤニヤしながら、都の肩へと手を置いた。
「まぁ、しょうがないねぇ。じゃぁ早速、その女子会とやらを始めようかい。あーちゃんの言う、ショウって子の話も聞きたいしねぇ」
「だったら、ミヤリンの恋バナも聞かせてよね!」
「そんな大昔の話聞いても、面白くないと思うけどねぇ」
「みっちゃん!恋に時代なんて関係ないのよ!?」
そんなことを言い合いながら、女子達3人はズンズンと家の中へと入っていった。
1人その場に残された以蔵は、
「当主の私の立場とは・・・」
そう悲しげにこぼしながら、その場に1人、佇んでいるのであった。
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