第208話:黄色いおっちゃん
「なんか、あっちめちゃくちゃわちゃわちゃしてねーか?
離れた所から重清達を観戦していた恒久が、呆れたように呟いた。
「ま、雑賀家はだいたいあんな感じだ」
ノリが、恒久の後ろからそう声を返して恒久の肩へとその手を置いた。
「ノリさん、その手・・・」
恒久の肩に置かれたノリの血だらけの手を見たシンが、心配そうにノリに声をかけた。
「ん?あぁ、これか。治癒の術。これでよし」
ノリは、ボロボロになっていた手に術をかけると、先程までの傷が嘘かのように綺麗になくなっていた。
ノリが残った血を服にこすりつけていると、恒久がノリの顔を覗き込んだ。
「それ、あのおっさんのせいか?」
「いや、この傷は単純に重清の術の威力だ。俺に傷を負わせるとは、あの術中々ヤベーぞ」
ニヤリと笑ったノリが、一同を見渡して言った。
「そういえばノリさん、さっきのあれ、なんなの?」
先程重清の大忍弾の術を止めようとして、為すすべも無くすり抜けられた麻耶はその理由が分からず、ノリに不機嫌そうな顔を向ける。
「ん?麻耶、百発百中の術、知らないのか?」
ノリが、意外そうな表情を浮べて返すと、
「
少しバツの悪そうな表情で麻耶が答える。
「ま、気持ちはわからんでもない、か」
それに苦笑いで返したノリは、そのまま話し続ける。
「さっき美影様が重清に向けて使っていたのが、雑賀家の忍術、百発百中の術だ。重清の撃った弾丸を、美影様の弾が避けてただろ?あれは技の力で操ってたんじゃなく、術による効果だったってわけだ」
「でも、智乃姐さんには撃ち落とされてましたよ?」
ノブが、横から茶々を入れた。
「そりゃ、術の練度が低かったからだ」
「・・・さっき、本来の力って言ってたぞゴリラ」
ケンが、ノブを馬鹿にしたように言う。
「言葉は足りてねーが、ケンの言うとおり。さっき重清やショウ達をすり抜けた、あれこそが百発百中の術の真髄だ。あの術はな、狙った獲物以外をすり抜けることができるんだよ」
「なるほどー。シゲの術を蹴った時に、あの人がかけたんですねー」
ショウが、爽やかスマイルをノリに向ける。
「でもよー、なんでノリさん、それが自分に向けられたのがわかったんだよ?」
そう言って恒久がノリを見る。
「恒久達は聞いただろうが、雅様は、元々雑賀本家のお生まれだ」
そう答えるノリの目から、涙が流れていた。
((((((あー、うん))))))
その光景で、一同はなんとなく察した。
「平八様がいらっしゃらないときは、雅様から修行して頂く事も多くてなー。あの人、手加減する時、よくあの術使うんだよなー。あの術を受けた数なら、誰にも負けないさ。あははは」
涙ながらに乾いた笑いとともに呟くノリに、その場の誰も声をかけることなどできなかった。
少しの間だけ雅から修行を受けたノブだけが、涙を流して頷いていたという。
「ってか、そんなスゲー術を手加減に使うとか、あの婆さんつくづくバケモンだな」
そう言った恒久の足元に、手裏剣が突き刺さった。
「・・・・あはははは。今のは、百発百中の術を使ってないってことだなー」
足元の手裏剣を見つめながら、今度は恒久が乾いた笑いを浮かべて言ったあと、再びノリへと話しかけた。
「それでノリさん、あのおっさん、何者だ?」」
「あの人は、雑賀本家に仕えてる―――」
そう言ってノリが送った視線の先の黄色いおっちゃんは、突然大声を上げていた。
「隠!!隠はどこへ行った!?」
その声を聞いてか、雑賀クルがその前へと姿を現した。
「はい。ここに」
「隠、見ていたぞお主の戦い!よくぞ頑張ったな!」
「あ、ありがとう―――」
「などと言うと思ったかーーーーーーーーーーー!」
そう叫んだ黄色いおっちゃんは、目の前の隠を思いっきり殴り飛ばした。
そのまま吹き飛んだクルは、そのまま近くの木へと激突した。
「貴様の使命はなんだ!?」
黄色いおっちゃんは、木を背にフラフラと立ち上がるクルを睨みつけた。
足元をふらつかせながら立ち上がったクルは、それでも力強く黄色いおっちゃんを見つめ返した。
「美影様と充希様を、お守りすることです!」
「その通り!それがお前の使命だ!それなのになんだこの体たらくは!?お2人から離れてしまうとは!!充希様は事切れ、美影様も大けがを負うところだったのだぞ!?」
「あんた、なんか死んだことになってるみたいよ」
少し離れたところで未だノビている充希に、黄色いおっちゃんの怒鳴り声を聞いたアカは笑って声をかけていた。
それはさておき。
「し、しかし、これは充希様からの指示で―――」
「言い訳をするな!!」
クルの目前に一瞬で移動した黄色いおっちゃんが、クルの胸元を掴みそのまま木に叩きつける。
「貴様、楽しんでおっただろう!?久しぶりに力を出せて嬉しかったのか!?」
そのまま木と黄色いおっちゃんに挟まれたクルは、その言葉を黙って聞き、俯いていた。
「おいノリさん、いいのかよアレ!」
そんな光景に我慢できなくなった恒久が、ノリに声をかけた。
恒久の言葉に、ノリは忌々しそうに呟いた。
「・・・あれはあくまでも、あの親子の問題だ」
「親子??」
「あぁ、あの2人は、親子なんだよ。とはいえ、いくら家庭の躾だろうとも、行き過ぎた躾は虐待か・・・」
そう呟いたノリは、仕方なさそうに2人の元へと駆け寄った。
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