第398話:再会は脱線と共に

「あれ?ここは・・・」

いつの間にか周りを真っ白な世界に囲まれた重清は、キョロキョロと周りを見渡した。


いつの間にか雅や公弘達の姿はそこになく、重清1人が真っ白い空間に立っていた。


ふと重清が気がつくと、真っ白い世界の中に、一筋の光が見えた。


重清がそちらに目を向けるとそこには、ポツンとテーブルと椅子2脚がセットされており、そこで1人の老人が、小さなカップを持って重清を見つめて笑っていた。


「じいちゃんっ!!」

重清は、涙を浮かべて老人の元へと走った。


「やっぱり、当主は重清になったんだね」

重清の祖父、鈴木平八、忍名、雑賀平八が、にこやかに笑って重清を迎えた。


光る頭を撫でながら。


どうやら重清の見た光は、平八の頭から発せられたもののようである。


「じいちゃん、なんで?もしかして生き返ったの!?ばあちゃん!?ばあちゃんが生き返らせたの!?」

重清は目を輝かせて平八を見つめていた。


そんな重清に、平八は苦笑いを返した。


「いくら雅でも、流石にそれは・・・あっ。でも雅、私が病気になった時、術で私を具現獣にしようとか言い出してさぁ」

「おぉ。これが伝説じいちゃんの脱線。見事に話が逸れつつ、しかも先が気になる話題を出してきた」

平八の言葉に重清が呟くと、2人は顔を合わせて笑いあった。


「思い出すな、重清。いつも2人で脱線して、よく雅に怒られてたっけ」

「そうそう。いつも優しいばあちゃんが、その時だけは怖かったよね。まぁ、今はいつも怖いけど」


「はっはっは。雅は、忍者としての契約をしていない孫には、優しい祖母であり続けたからね。

どちらも本当の雅ではあるけれど、その怖い雅が、素の雅なんだよ。でも、あれで可愛いところもあるんだぞ?

あれは確か、結婚して間もない頃―――」

「じいちゃんとばあちゃんの惚気話への脱線は勘弁して。っていうか、そろそろ本題に入ろうよ」

重清が、話を本線へ引き戻そうとした。


あの重清が、である。


流石は脱線の本家本元、平八。

重清すらもその脱線には、完全にはついて行けないようなのである。


「それで・・・じいちゃん、ここはどこなの?じいちゃんは、本物のじいちゃんなの?」

重清の問いかけに、平八は困り顔を浮かべた。


「本物かと聞かれると、答えに困るな。じゃぁ、順を追って説明するけど、その前に。

重清、当主就任、おめでとう」

「あー、うん。別になりたくてなった訳じゃないけど・・・ありがと」


「おや?なりたかった訳じゃないのかい?

まぁ私としては、私の遺言どおりになって嬉しいんだけどな」

「じいちゃんの遺言?」

重清は、平八の言葉に首を傾げた。


「雅から聞いていないのか。重清、ここに来るまでの経緯を話てくれないかい?ここからでは、何が起きたかまでは分からないんだ」

平八がそう言うと、重清は脱線を繰り返しながらもその日起きたことを説明し、平八もまた脱線での相槌を繰り返しながら重清の話を楽しそうに聞いていた。


こうして、普通であれば10分程度で終わるはずの重清の話は、1時間程で現在へと至った。


「なるほど」

重清の話を聞き終えた平八は、


「やはり浩は、その責任感だけで当主を目指していたんだね。浩だけには、先に話させておいて正解だったよ」

そう言って笑顔で頷いた。


「ばあちゃんが浩兄ちゃんに先に当主の話をしたのは、公弘兄ちゃんから聞いたけど・・・それって、じいちゃんの差し金だったの?」

「差し金って言い方はひどいな。でも、重清の言うとおりさ。結果として当主は、第2案で選ぶことになったみたいだね」


「第2案?」

「そう、第2案。第1案、つまり私の本当の遺言は、重清を当主に、だったんだよ?」


「何でおれなの?浩兄ちゃんも、麻耶姉ちゃんも、それに公弘兄ちゃんや裕二兄ちゃんでもよかったじゃん」

重清は、不思議そうに平八を見つめていた。


「重清、太も忘れないであげてね?」

平八は小さく笑いながらそう言うと、重清をじっと見つめ返した。


「重清、お前は私によく似ている。似すぎていて、いつかお前にこの頭まで継がせてしまうかもしれないと思い悩むくらいにね」

平八は言いながら、不毛な頭を撫でつけた。


「え、おれもそんなにハゲちゃうの!?」

重清は平八の頭を見つめながら悲しそうに叫んだ。


「ハゲって・・・孫からハゲって言われちゃったよ・・・」

平八は重清の言葉に心を抉られ、1人地に膝をついて項垂れた。


ちなみに、天才忍者雑賀平八の膝を地につけさせたのは、後にも先にもその妻雑賀雅のみであり、重清は史上2人目なのである。


重清の場合は、クリティカルな精神攻撃ではあったが。


「あー、なんか、ごめんね?」

重清は、めちゃくちゃ落ち込んでいる祖父に、小さくそう声をかけるのであった。

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