第443話:允行の元へ

「ったくよぉー。なんで俺がお前達に付いていかなきゃいけねぇんだよ」

3中校区内の森の中を進む琴音の後ろで、近藤が恒久に不満そうな声を漏らした。


「うるせぇな。お前、ショウさんと再戦したいんだろ?

それに俺との決着だってついてねぇじゃねぇか。

少しくらい役に立てよ」

恒久は面倒くさそうに近藤へと返していた。


允行の元へ向かおうとする琴音に、恒久は近藤の同伴を求めていたのだ。


雅やノリではなく近藤だったこともあり、特に影響はないと判断した琴音はそれを承諾し、彼らを連れて允行の元へと向かっているのであった。


「ちっ。これが済んだら、まずはお前をボコボコにしてやるから覚悟しておけよ」

近藤はそう言うと、


「琴音よぉ。まだ着かねぇのかよ?」

琴音へと声をかけた。


「もうすぐ着くわ。それと、いつも言っているけど馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」

振り向くこともなくそう答える琴音に、近藤は舌打ちをして琴音から視線を外した。


「ツネ、なんであの人を連れてきたのよ」

琴音に冷たくあしらわれる近藤をニヤニヤ見つめていた恒久に、肩にカラスのとまった茜がいぶかしげに目を向けた。


「ん?あぁ、まぁちょっとな」

曖昧に答える恒久に、茜が不満げな表情を浮かべていると、


「着いたわ」

琴音が立ち止まって振り向いた。


彼らの目の前には、一軒の小屋が生い茂った木々に囲まれるように佇んでいた。


「ここが、あの男の家だそうよ」

そう言って中に進もうとする琴音の背後で、


「違う。中には居ない。あっちだ」

聡太がそう言って森の奥へと目を向けた。


「もう。勝手に出歩かないで欲しいわね」

琴音がブツブツと呟きながら聡太の視線の先へと進み始め、一度も顔を見合わせてその後に続いた。


「っ!?」


直後、彼らの目に入ったのはなぎ倒された木々であった。


「あっ・・・」

家の方を振り向いた聡太が声を漏らし、その声に誘われるように一同は背後に目を向けた。


壁のあるはずのその家には大きな穴が空いており、そこから覗くことのできる部屋の中は、何かが暴れたかのように荒れ果てていた。


どうやら部屋の中から続く激しい戦闘の跡が、木々をなぎ倒した森の奥へと続いているようであった。


「この先、だね」

聡太がスマホレーダーに目を落として呟くと、一同は顔を見合わせてうなずき合い、その先へと進んだ。


やがて一行は、森の開けた場所へと到着した。


いや、開けたと言うと語弊がある。


その場は激しい戦闘によってことを、辺りに無数に倒れる木々が物語っていた。


その中心に、允行が1人佇んでいた。

その足元には・・・


「美影っ!!」

重清は允行の足元でボロボロになった美影を目にし、声を上げて美影の元へと向かおうとした。


「動くな、雑賀重清。人質の命が惜しくないのか?」

允行が重清を見据えて言った。


「お前!美影に何したんだよ!?」

その場で立ち止まった重清は、允行を睨みつけた。


「こやつが襲ってきたのだ。こちらはただ、相手をしただけだ。安心しろ、命までは取っていない」

允行は冷たく重清へと返した。


「ちょっと!その子には手を出さない約束でしょ!?」

その時、琴音が叫びながら允行へと駆け寄った。


「だから襲われたと言っているだろう」

胸ぐらを掴む琴音に、面倒くさそうに答える允行に、琴音はなおも叫んだ。


「だからって、こんなになるまで―――」

「それを貴様が言うのか?」

允行の言葉に琴音は口を閉じ、允行の胸ぐらから手を離して俯いた。


「面倒だ。貴様にももう用はない。寝ていろ」

允行がそう呟くのと同時に琴音の腹に允行の拳がめり込み、琴音はそのまま地へと倒れ込んだ。


「琴音ちゃんっ!」

「動くなと言っているだろう?」

再び走り出そうとする重清を、允行は睨みつけた。


「どうやら約束の術は揃ったようだな。早速始めよう」

何事もなかったかのように言う允行に重清は、


「なんで・・・なんでこんなことを!?」

そう叫んだ。


「簡単なこと。この娘の父、雑賀兵衛蔵の仇が私だからだ。

それを知ったこの娘が、目を覚ました途端襲ってきたのだ。

まぁ、良い暇つぶしにはなったがな」

允行はそう言って小さく笑った。


そこには、どこか悲しげな色が浮かんでいた。


「お前が美影のお父さんを?」

重清は、じっと允行を見つめた。


「そう。あの男、決して生かしてはおけなかったのだ」

允行は小さく頷いて、そう答えた。


「貴様ら、雑賀本家の事は知っているであろう?

同じ忍者でありながら、契約忍者を忍者とも思わぬあの思想。今でこそその思想も薄れてはいるが・・・

あの思想の元凶とも言えるのは、雑賀本家の弟子である雑賀日立。それは間違いない。しかしあの男程度がどれだけほざこうが、そのような思想、広まりはしない。

だが、あいつは違う。

雑賀雅の再来とも言われるほどの才能を持つ雑賀兵衛蔵は、雑賀日立の思想を色濃く受け継いでいた。

あの男の才能ならば、すぐにでも協会の長になっただろう。


そんな危険な思想を持つ男がトップになった忍者に、未来があると言えるのか?

せっかく雑賀平八が整えつつあった、師の理想とする忍者の障害になる。

私はそう考えて、雑賀兵衛蔵を葬ったのだ」


允行のその言葉に一同が言葉を失っていると。


「う、嘘よ!」

允行の足元に倒れたまま、美影が叫んだ。

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