第42話:重清の目標と覚悟
「はぁ!?ってかダーリンとかやめて!」
雅の言葉に、今まで散々悩んでいた重清の脳内は、パニックを起こす。
「ダーリンて!いや、そこじゃない!じいちゃんが、カリキュラムを作った?いやまぁ、うちの家族みんな忍者だったし、もしかしたらじいちゃんも忍者なのかなぁって薄々は気付いてたけども!」
「誰の頭が薄いって?」
雅が鬼の形相で重清を睨む。
雅の前で平八の頭部について語ることが禁忌とされているのは、鈴木家の暗黙のルールなのであった。
「違う、そこじゃない!頭のことは言ってない!あーもう!ただでさえ混乱してるのに、話をややこしくしないでよ!」
そんな重清の様子を見て、雅はふっと笑う。
「そうそう、あんたはそうやって騒いでる方が合ってるよ。」
そう言われて、不貞腐れた表情の重清は、
「確かに、混乱したせいで悩んでたことが一旦は吹っ飛んだけど。何の解決にもなってないよ。」
と、口を尖らせて言う。
「拗ねるんじゃないよ。あんたにはまだ、言いたいことがあるんだ。だけどその前にプレッソ、お前はどうして何も言わないんだい?」
と、雅はプレッソに話しかける。
「これは重清の問題だろ?オイラがとやかく言えることじゃないよ。」
「確かに、重清が悩んでるのは重清自身の問題だ。だがね、あんたは重清の具現獣だ。あんたと重清は、文字通り一心同体なんだよ?重清を導けとは言わないさ。でもね、せめて話を聞いてやるくらいは、してやってもいいんじゃないのかい?」
「・・・わかったよ。」
「よろしい。プレッソ、これからもこのバカをよろしく頼むよ。」
そう言って雅は、片手で重清の頭を無造作に撫でつつ、もう片手でプレッソを優しく撫でる。
(ゴロゴロゴロゴロ・・・・ハッ!)
つい喉からそんな音を出してしまったプレッソが、
「ガ、ガキ扱いすんなよなっ!」
と、可愛く拗ねて雅の手から逃れ、重清の頭の上に飛びつく。
「そういう所がガキっぽいってのに。まぁ、それはそれとして。重清、気持ちの整理はできたのかい?」
「いや、全然。」
「だろうね。ところで重清、あんた、忍者として、いや、生きるうえで、何か目標持ってるかい?」
「目標?・・・いや、特には無いかな。」
「そんなこったろうと思ったよ。今までずっとあんたを見てきたけどね。あんたは大体のことは、卒なくこなせる。運動も、勉強も。だからこそ、やり甲斐を感じるようなことに出会ったことがない。違うかい?」
「そう言われたら、そうだけど・・・」
重清が、バツの悪そうな表情でそう呟く。
「今すぐ大きな目標を持てとは言わない。だけどね、目標もなく生きるのと、目標を持って生きるのは、大きく違うのさ。だから、少しずつでもいい、何か目標を持って、生きるんだ。」
「目標、かぁ。」
「そう、例えば、『レギュラーになる』、とかね?」
雅がニヤリと笑って言う。
「あ、ばあちゃん、もしかしてさっきの模擬戦ずっと見てたの?」
「さっきも言ったろ?ずっと見てたって。あんたこのままじゃ、聡太くんに置いて行かれるんじゃないのかい?」
「んー。まぁ、そうなんだけど。あ、ばあちゃんさ、中忍体って、他の部活みたいに全国大会ってあるの?」
「ん?あぁ、そうだよ。それがどうかしたのかい?」
「じゃぁ、おれのひとまずの目標は、『全国大会出場』、だな!」
「ハッハッハ!これは、大きく出たね。それでこそ我が孫だよ。あんたを見ていると、あの人を思い出すよ。」
「じいちゃんを??」
「あぁ。あの人もあんたみたいに優しい人だった。だからこそ、人を傷つけることに戸惑う子たちも成長できるようなカリキュラムができているのさ。あの人にはね、若い頃から目標があったんだよ。忍者を教育するシステムを作る、っていうね。
そして、あの人は『覚悟』を持っていた。『人を傷つけない』っていう覚悟をね。」
「人を傷つけない、覚悟。」
「そうさ。あたしは、そんなあの人に惚れたのさ。」
そう言って、雅は顔を赤らめる。
「やめて!じいちゃんとばあちゃんのそんな話、聞きたくない!!」
「なんだい、そんな話があったからこそ、あんたはこうして生まれて・・・・」
「もうやめてーーー!」
「せっかく、あたしらの出会いを語ってやろうと思ったのに。」
「それはまた、いつかの機会に!」
「しょうがないね。」
雅が、残念そうな顔をする。
「よし!ばあちゃん、おれ決めた!さっきの目標とは別に、おれの目標であり覚悟!おれ、全てを守れる人になる!」
「全てを、守る?」
一瞬キョトンとした雅が、そのまま笑い出す。
「全てを、か。そりゃぁ、『全国大会』なんかよりよっぽど難しそうだね!」
「それはわかってるよ。こういう目標って、マンガとかでもよく出てくるし。『そのためには強くならなくてはいけない~』って言うんだろ?
でもおれさ、昔ソウがいじめられてたとき、実は助けるってつもりなかったんだ。ただ、普通にあいつに話しかけただけだった。それが、たまたまソウを助けることにつながった。あのとき、あいつスゲー喜んでさ。ホントは、おれの方こそ嬉しかったんだ。おれでも人の役に立てるんだーって。だからおれ、全てを守れる人になりたい!」
「それが、あんたの目標であり、覚悟なんだね?」
「おう!」
「それじゃぁ、どんどん強くならないとね。」
「うん!プレッソも、心配かけて悪かったな!」
「心配なんかしてねーよ。どうせ重清のことだから、なんだかんだで乗り切ると思ってたからな。
それにしても、『全てを守る』か。思った以上の着地点になっちまったな。
でも、それでこそ重清だな。オイラも、その目標一緒に目指していいのか?」
「え?これ、おれとプレッソの目標のつもりだったんだけど?」
「はっ。いいさ、どうせオイラたちは一心同体。一緒に強くなって、2人で全てを守ってやろうじゃねーか!」
「ありがとな。」
笑ってプレッソにそう言った重清は、雅へと視線を向ける。
「そういえば、じいちゃんって、強かったの??」
「そりゃぁ、人を傷つけないなんて覚悟を持ってんだ。強かったよ。結局あたしは、一度もあの人には敵わかなったよ。」
「え、そんなに!?」
「あの人は、天才だったよ。しかもそのうえで、努力も惜しまない。才能の上に胡坐かいてたあたしじゃぁ、勝ち目はなかったよ。」
「いや、才能あるって自分で言い切ってるばあちゃんもたいがいだけどね。」
「本当なんだから仕方ないじゃないか。あんたは、そんなあの人とあたしの血を引いてるんだ。さっさと強くなってもらわないと困るよ?そして、生きてる間にあたしを超えておくれよ。」
「じゃぁ、あと50年くらいは生きてもらおうかな~」
「甘ったれるんじゃないよ。」
そう言って笑う雅なのであった。
「よし、じゃぁそろそろ戻ろうかな。」
「あぁ、もう大丈夫みたいだね。ちょっと、修行していくかい?」
「いや、あんなひでー修行を、『ちょっと飲んでく?』みたいなノリで聞いてんじゃねーよ!」
プレッソが、ついつっこむ。
「おや、あたしにそんな言葉使うなんて、たっぷり修行してほしいみたいだね?」
「え、いや、あの・・・」
「じゃ、プレッソ、修行頑張れよ!おれは戻っとくから!じゃ、ばあちゃんまたな!」
そう言って重清が全速力で逃げていく。
「あ、おいこら重清!オイラたち一心同体なんだろ!?一人で逃げてんじゃねーぞ!!」
そう言って、プレッソも全力で重清を追っていった。
「まったく、落ち込んだり騒いだり、忙しい子たちだよ。でも、いい子だろ??」
雅が、だれもいなくなったはずの部屋でそう呟く。
すると、先ほどまではいなかったはずの何物かの声が聞こえてくる。
「そうね。ちょっとバカっぽいけど。」
「そこが可愛いんじゃないか。」
その声に雅が返す。
「でも、あの子を見ておるとあいつを思い出すわ。」
「だったら・・・」
「その件は、まだ保留にしといてちょうだい。」
「だが、あんたにはもう時間が・・・」
「わかっているわ。それでも、よ。私にも『覚悟』があるのよ。」
「まったく、誰に似たんだか。」
「それは、あなたがよ~くわかってるでしょ?」
ふふふ、と妖艶な笑い声が、その場に響くのであった。
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