第254話:2年生トリオの憂鬱

「なぁ、課題どうするよ?」

気だるそうな声で、シンこと脇田慎二が言うと、


「さっぱりわからん!!」

ノブこと森坂信宏が頭を掻いて答える。


そんな2人と共にいるケンこと湯上剣は、慎二の言葉に答えず1人黙りこくっていた。


今3人がいるのは脇田家。

両親が共働きの慎二の家は、3人が忍者部の話をするのにいつもここを使っているのである。


「女子と1週間話せないとか、俺にとっては死刑宣告も同じなんだけど!?」

「シン、お前そんなに女子と話してないじゃないか」

慎二の心からの叫びに、信宏は容赦なくつっこんだ。


「いやそうだけど!そういうときに限って告白されたりするかもしれねーじゃん!!」

「はっはっは!ないない!」

慎二の可哀相な妄想に、信宏は豪快な笑いを返した。


「ソッコーで否定すんなよなっ!そう言うお前はどうなんだよっ!」

「はっはっは!女子となど、全く話せておらん!」


「だろうな。お前は『筋肉が恋人』タイプだもんな」

「はっはっは!って、それはない。どこの陸上部の顧問だ」


「いや普通につっこむなよ!調子狂うじゃねーかっ、っておいケン!さっきから黙りこくってどうしたんだよ?こういうときにノブを貶してこそケンだろ!?」

信宏につっこみつつ、慎二は剣へと向き直った。


「・・・・・・・・」


「もしかして剣、何か良い作戦でも考えてんのか?」

沈黙を守る剣に、慎二は期待の眼差しを向けていた。


それでもなお沈黙する剣に、慎二は肩を落として俯いた。


「はぁ〜、どうすんだよお〜」

「ま、3人で手分けすればどうにか―――」


信宏が、最近髭が生えてきた顎に手を当てながらそう言っていると、剣がスッと立ち上がった。


「俺は今回、2人とは組まない」


そう言って、剣はそのまま部屋から出ようと歩き出した。


「ちょ、ケン、待てよ!組まないってどういうことだよ!?俺ら、3人揃って1人前じゃないか!」

「シン、それ言ってて悲しくならんか?」

慎二の言葉に、信宏は呆れ顔でつっこむ。


「今回俺には、作戦がある」

そんな2人に、剣は言い放った。


「だったら、その作戦に俺らも加えてくれよっ!!」

慎二は、剣へと懇願した。


慎二は必死なのだ。

女子と話したいのだから。


「悪い。これ、俺にしかできない」

それだけ言って剣は、部屋の扉の前で立ち止まり、


「悪いな」

振り向かずにそう言って、そのまま部屋から出て行ってしまった。


「んだよケンのヤツ!裏切り者ーーっ!!」

慎二は、自身の部屋の扉に向かって叫んだ。


「あー、どうすんだよー。1年だけじゃなく、ケンにまで置いていかれちまうぞ」

返事のない扉から視線を外し、慎二はため息交じりに言った。


「なんだシン。お前1年達に置いていかれてると思ってるのか?」

そんな慎二に、意外そうな表情を信宏は向けた。


「実際置いてかれてんじゃん。4人とも、ガンガン強くなってるし」

「まぁ、あいつらは特殊だからな。ソウは忍者部でもダントツで忍力が高いし、シゲとツネは血の契約者、アカに至っては、あの雅さんの弟子なんだからな。

しかし・・・」

そこまで言って、信宏は慎二を見据える。


「オレらも充分強くなっている。3人でかかれば、ショウさんとも互角に張り合えるようになったじゃないか。前は3人掛かりでもコテンパンだったのに、だ。

着実に、強くなっている。オレらはオレらのペースで、進んでいけばいい」


「ノブ、お前、大人だな。その見た目通り」

「見た目は余計だ」


「そんな余裕のある大人なノブが、なんでモテないんだろうな」

「はっはっは!見た目がオッサンだからな。ウチの親父も、オレがモテるのは30代に入ってからだと言っとったわ」


「お前んちの親、結構辛辣なのな」

「親父が、オレみたいに老け顔だったらしいからな」


「経験者は語る、ってやつか・・・ってそんなことはいいんだよ!どうすんだよ、課題!」

「まぁ、2人で探っていくしか無いだろう」


「はぁ、やっぱそうなるのかぁ〜。ケンのヤツ、どんな作戦考えたんだろうな」

「まぁ、たまにはアイツの好きにさせてやればいいさ」

そう言ってニヤリと笑う信宏に、慎二は怪訝な顔を向けた。


「ノブ、お前何か知ってんだろ?」

「さぁて?」

そうとぼける信宏は、窓から見える空に目を向けて、


(ケン、頑張れよ)


そう、友人へとエールを送っていた。



優しきゴリラ、信宏からのエールなど知りもしない剣は、学校に向かっていた。


剣は、ノリに課題の答えとなる一組の男女を、既に用意していたのだ。


ただし剣には、その2人がくっつくという確証は全く無かった。

むしろ、可能性はかなり低いと思っていた。


それでも彼は、その2人を報告しなければならなかった。


剣は、決意のこもった目で、職員室の扉へと手をかけるのであった。

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