第2話:考え方の違い

それからも、時々雅はその店にやってきました。


そのたびに雅は、平八の隣に陣取り、事あるごとに平八を小馬鹿にしていました。


そんな雅の態度に我慢出来なくなった私は、ある時から変化の術で人の姿になり、平八の隣に座るようになっていました。



「あら、今日は連れがいるのね―――あんた、人じゃないわね。もしかして、あたしをガキって言った、こいつの具現獣?」

私の姿を見た雅の第一声でした。


私は、少しだけ驚きました。

具現獣だとバレないように、私はいつもこの姿になった時には力を配分してカモフラージュしていました。

実際に初めてあった人には、どれだけそれが優れた忍者であろうとも、私が具現獣であるとはバレることがなかったのです。


まぁ、私のこの姿に見惚れてしまうのも理由だったとは思うけれど。


それでも雅は、ひと目見ただけで私を具現獣だと看破しました。

流石に天才と呼ばれているだけのことはあると、少しだけ雅を認めてあげてもいいかと思っていたら。


「あんた、具現獣にそんな格好させるなんて、もしかして変態?」

雅は侮蔑の眼差しを平八に向けました。


やっぱりこの女のことなんて、認めてあげるわけにはいきません。


「いやいや。これはあくまで、彼女の趣味だからね」

平八は、少し焦ったように雅に言っていました。


私のこの姿は平八の好みに合わせていたわけだから、実際には平八の趣味、という雅の言葉は間違ってはいないのだけれど、それを言ってしまうと雅の言葉を肯定することになるから、私はただ、雅を睨みつけていました。


「こいつ、私のこと睨んでるわよ?躾がなってないんじゃない?」

「具現獣はペットじゃない。今の言葉は、取り消してもらえないかな?」


「何を言っているのよ。具現獣は忍者の手足となって働く、ただの道具でしょ?」

「彼女達は、しっかりと自分の意志で生きている。その言葉も含めて、取り消してくれないかな?」


「馬鹿なことを。所詮は契約忍者―――」

「取り消して、もらえるよね?」


「ぐっ」

平八の強い眼差しに、雅はたじろいでいました。

後から聞いた話では、その時の彼女は、少しだけ恐怖を感じていたといいといいます。

平八から出る、形容しがたいその力に。


「ふんっ。まぁ、仕方ないから取り消してあげるわ」

雅は少し焦ったようにそう言って、自身の恐怖を誤魔化すかのように言葉を続けました。


「それにしてもそいつ、それなりにできるみたいね。雑賀家にも1匹、代々引き継がれている小汚い犬がいるけど、それと同じくらいには力があるようね」

「おや。雑賀家の具現獣と同じくらいだってよ?シロ。君もまだまだみたいだね」


「あんた、雑賀家に喧嘩を売っているの?」

「いやいや。そういうつもりはないさ。彼女は、具現獣の中で一番強くなるつもりらしいからね。だから、誰の具現獣であれ、『同じくらい』ではだめってだけさ」

笑いながら言う平八の言葉が、私には嬉しかった。


どれだけ自分が雅に馬鹿にされても平八は笑っていたのに、私のことで怒ってくれるなんて、思ってもいなかったから。


それに、ずっと横柄な態度をとっていた雅が怯えていたのも見られたしね。

少しだけ、ザマァ見ろって思ったわ。ほんのちょっとだけね。


その時、私は何かを感じ、平八に声を掛けました。


(平八!)

(わかってる)

平八は私にそう答えると、


「すまない、ちょっと野暮用で席を外すね」

雅に笑いかけて席を立ちました。


私は急いで平八の後について、店を出ていきました。


店を出る直前、私が雅の方へ振り向くと、雅はそんな私たちに特段興味も持たずにただ、手に持った珈琲を口に運んでいました。

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