第144話:密書を求めて

呉羽からの試験を言い渡された2人は、とある家へと侵入していた。


(おいシゲ、こんなとこ侵入してるの見つかったら、下手したら殺されちまうんじゃないか?)


(そんなこと言ったって、試験クリアしないと術教えてもらえないんだから、仕方ないじゃん!)


2人はコソコソと、まるで修学旅行の消灯時間あと並みに静かな声で話していた。


そんな2人は、手ぬぐいを鼻の下で結んだ、いわゆる『大魔王スタイル』の姿となっていた。


いや、今回に限っては、『泥棒スタイル』であろう。


彼らは呉羽の試験のため、この家からとある密書を盗み出すべくこの場にいるのであった。


(あのばあさんの言うことが正しいなら、密書は突き当りの階段から上がった2階の部屋だったな。)

(うん。今この家には誰もいないはずだから、盗むなら今のうちだ。)


2人はとある情報筋から、現在この家の住人が外に出ているという情報を手に得れていたのである。


なんとも忍者らしくなった2人なのである。


1つだけ言っておくが、盗みは犯罪です。

決してやってはいけません。


そんなことはさておき。


2人が同時に歩を進めると、


『カチッ』

そんな音が聞こえてきた。


(おい、今カチッてぶへっ!!)


突然壁から現れた丸太が腹部に直撃して吹き飛ぶ恒久。


(ちょ、ツネ!だいじょ―――)


『カチッ』


「へぶっ!」


『カチッ』


「だふっ!」


『カチッ』


「おぎゃっ!」


・・・・・・・・・



「だぁ〜っ!!何なんだよ、ここは!一歩踏み出すごとに罠じゃねーか!映画の少年でも、ここまで酷いことしてなかったぞっ!!!」


「事実は小説より奇なり、ってやつだね。」

「言ってる場合かっ!!」


こうして2人は、少しずつ廊下を進み、罠のパターンが分かってきたと思ったらパターンが見事に変わり、それを覚えた頃には再びパターンが変わることを繰り返し、結局全ての罠を余すことなくその身に受けながら階段の前まで到着する。


「「はぁ、はぁ、はぁ。」」


2人は最早、虫の息であった。


そしてお互いに視線を交わし、恐る恐る階段へと足を踏み出した。


「あれ?何も起きないね。」

「あぁ。多分廊下にだけ、罠があったんだろ。」


肩透かしを食らった2人は、それでも恐る恐る階段を上がっていき、何事もないまま最後の段へと足をかける。


『カチッ』


「「のぉーーー!」」


突然階段が綺麗な滑り台へと変わり、さらに突然流れてきた油に足を取られた2人は、そのまま見事なまでに華麗に、そのまま1階へと滑り落ちていった。


・・・・・・・・・


「あぁーーー!この罠作った奴、絶対俺達のこと馬鹿にしてんだろうっ!!!」


しばしの沈黙の後、恒久が怒りをあらわにする。


最早、人の家に侵入していることなど、忘れてしまっているのだろう。


盗みに入る時は、もっと静かにするべきではないだろうか。


念の為再び言っておくが、盗みは犯罪です。

決してやってはいけません。


結局2人は、その後何度かコント仕掛けの階段へと挑戦し、何度か目でようやく目的の部屋へと到達したのであった。


2人はもう、心身ともにボロボロになっていた。


それでも2人は、ようやく目的の密書を手に入れられると安堵して、目の前の扉を開け放った。


と思ったら、そこにあったのは開け放った扉よりひと周り小さな扉。

それを開けてもまた扉。


そしてまた扉。


からの扉。


で、また扉。


も一つ扉。


そんなことを何度も繰り返していくと、やっと、扉の先に部屋が見えた。


そのときには扉はもう、匍匐前進で入って行くことしかできないほどに、小さくなっていた。


顔に青筋を浮かべながら、恒久はその扉を匍匐前進で進んだ。


直後、恒久の鼻を襲う猛烈な匂い。


恒久の目の前にあったのは、ブルーチーズだった。


そう、ブルーチーズ。

強烈な匂いでお馴染みの。


「洒落たもん置きやがって!でも、甘いわぁっ!!」

そう叫んで恒久は、ブルーチーズに齧りつく。


「俺はチーズが大好物なん―――ぐぁっ!!」


恒久が悶絶する。


そんな恒久の視界には、齧りついたブルーチーズの中から溢れんばかりに流れ出すたっぷりのカラシ。


そう、カラシ。

罰ゲームとかでもお馴染みの素晴らしい薬味。


「っーーー!」


恒久の、声なき声だけが静寂を包むその家に響き渡るのだった。



散々な目に会いながらも、2人はようやく密書の隠されている箱へと到着した。


「ほぼほぼ俺が、散々な目に会ってるけどな。」

どこへともなくつっこみながら、恒久が重清と共にその箱へと手をのばす。


「「こ、これは!?」」

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