もう1つのエピローグ:平八の本には書かれていない、1人と1頭の物語

「本当に、行かなくて良かったのか?あれからもう5年経つのではないか?」

「いいのよ、青龍。噂では、皆それぞれに弟子を作っているみたいだし。ほとんど弟子を取ってない私が行っても、師匠の理想とする組織を作り上げる役には立たないわ」


「そんなわけ無いと思うがな。それにもしかすると、允行とうぎょうも向かっているかもしれんぞ?」

「な、なんで允行の名が出てくるのか分からないけど、多分允行も、行かないと思う」


「ほぉ。何故そう思う?」

「なんとなくよ」


「なんとなく、か。しかし、主が言うと間違っておらぬ気がするから不思議なものだ」

「ふふふ。ありがとう」


「それで主よ。いつまで允行を探して旅を続けるつもりなのだ?」

「えっ、いや、別に允行を探していた訳ではないわよ?ただ・・・そう。住むのにいい場所が無かっただけよ!」


「・・・・・・・」

「そ、そんな目で見ないでよ」


「主が正直にならぬ限り、我はずっとこの目で主を見るぞ?」

「もう!わかったわよ!允行を探してましたよ!」


「まったく。心優しかった主が、こうも素直でなくなるとは驚きだわい」

「私だって、成長してるんです〜」


「その割に、弟子は1人だけのようだかな。しかも、少し修行をつけたらさっさと置いていきおって」

「本当は、あの子も弟子にするつもりはなかったんだけどね。

でも、両親も居ないあの子が1人で生きていくには、今の世は厳しすぎるから・・・」


「ふっ。成長しても、やはり優しさは変わらぬようだな。しかし、あの子の具現獣が話したのには、驚いたな」

「そうね。私達・・・5人の中で、話せる具現獣を具現化したのは私だけだったからね」


「やはり、主と契約したからかのう」

「ううん。きっと、あの子の才能よ。あの子、友達が出来たって喜んでたし。きっと、あの子、いい忍者になるわ」


「では、あの子にあの術を受け継ぐのか?」

「・・・・・たぶん、しない」


「では、主が死ぬときは、どうするつもりなのだ?

あの術は次の世にも引き継がなければならないのではないか?」

「そう、なんだけどね。まぁいざとなったら、奥の手を考えてるから大丈夫よ、きっと」


「何故か一瞬寒気がしたが・・・・

そういえば、何故あの子に『根来ねごろ』という姓を与えたのだ?」

「大きな意味はないわ。他のみんなと違う姓がいいと思っただけ」




数十年後。




「おや?向こうに村が見えるぞ」

「あら、本当ね。私もそろそろ年だし、あの村にお世話になろうかしら」


「允行も見つからぬままだしな」

「そうね。そろそろ、探し回るのではなく、1つの場に留まって探すのも悪くないわね。青龍、先に行って、様子を見てきてくれる?」


「承知した」




「うわぁーーーっ!龍だぁーーーっ!!」

「逃げろ、逃げろーーーっ!!」

「助けてくれぇーーっ!」

「命ばかりはお許しをーーっ!!」



「あ・・・・しまった。そうよね。龍なんて見たら、誰だって驚くわよね。

森の中だと思って油断したわ」



「みなさん、お逃げください!この龍は、私が退治いたします!」

「むっ。主よ、何を言って―――」


「青龍、少し黙ってて!」


「おぉ!どこのどなたか存じませんが、感謝いたします!」

「お礼はいいから、早く逃げて!」



その後彼女は村を救った大恩人として、その村で静かに息を引き取るその日まで、愛する男を待って独り身を貫いたという。

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