第7話:旅
ある日、師は弟子達を集めた。
弟子達を前に、師である男は語り出した。
「お前たち、これまでよく私についてきてくれた。
ただ私の理想とする組織を作るという夢についてきてくれて、本当に感謝する」
そう言って頭を下げる男に、
「どうか頭をお上げください。師の、父の夢は、我々全員の夢でもあるのです。我々が感謝することはあっても、師が頭を下げる必要などありません」
一番弟子である
「お前たち・・・・」
弟子達の言葉に、男は涙を浮かべ、しばし押し黙っていた。
そして顔を上げた男は言った。
「お前たちに言い渡す。これより1年後、お前達には旅に出てもらう」
「旅、ですか」
角端が、呟いた。
「そうだ。残り1年間、ここで皆と力をつけた後、お前達はここを出るのだ」
「こ、ここを出て、我々は何をすれば良いのでしょうか」
丞篭が、師の顔を覗き込んだ。
「何でも。好きに生きたら良い」
男はそう答えた。
「あの、それじゃわからないんですけど」
麟が、手を挙げてそう言った。
「ふむ。分かりにくかったか。
お前達は皆、私の夢を自身の夢だと言ってくれたな」
男の言葉に、6人全員が頷いた。
「うむ。であればその夢、後はお前達に叶えてほしいのだ。
そのために1度、それぞれが違う道を歩んで欲しい。そうすることで、様々な目を、培うことができるはずだ」
「でもよぉ、それだと全員が違った組織を作ることにならねーか?」
炎空が、他の弟子達に目を向けて言った。
「その通りだ。だから旅に出て5年後、改めてここに集まるんだ。そして、集まった者達で組織を作り上げてほしい」
「なるほど。そこで互いに意見を出し合って、組織を作るんですね」
索冥は納得したのように頷いた。
「そういうことだ」
男はうなずき返すと、言葉を続けた。
「どんな組織となるかは、その時に決めてくれればいい。
しかし願わくば、他者のために動く、そして皆が幸せになるような組織にして欲しい」
「なんだか、その時には父様はいらっしゃらないような口ぶりですね」
角端がそう言うと、男はニコリと笑った。
「そんなつもりはない。私も、共に考えるさ」
男の言葉に、角端は安心したようにため息をついていた。
「よ〜し!あと1年しかねーんだ。さっさと修行始めようぜ!」
炎空がそう言って修行に向かうと、他の弟子達も次々とその場を後にし、残ったのは男と允行だけとなった。
「ふう。やはり角端は鋭いな」
そう呟いた男は、ひとり残っていた允行に声をかけた。
「お前は行かないのか?」
「いえ。私も行ってきます」
允行は慌てたようにそう返すと、そのまま他の弟子達の後についていった。
「・・・・・・・」
男は允行の背を無言で見守っていた。
允行が、組織の話になった途端押し黙っていたことに男は気付いていた。
允行が、日に日に開いていく他の弟子達との力の差に思い悩んでいた事も。
しかし男は、ただ允行を見守っていた。
最も信頼するこの一番弟子ならば、きっと自身の力でそれを乗り越えてくれるはずだと、信じていたのだ。
それは、将来允行と同じ力を発現させた者達を救うことにもなると、男は信じていた。
しかしその数日後、師から最も信頼される青年は、突然姿を消した。
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