第149話:決着と登場と逃亡
「ぐ、ぐぁーーーーっ!」
恒久の幻感の術に掛かったヒトは、何度も襲いかかる手裏剣の幻に叫び声をあげ、その場に倒れ込んだ。
「よっしゃぁ!!」
恒久が、雄叫びをあげる。
「おれ、ほとんど何もしてないんだけど。」
その傍らでは、重清が不貞腐れた顔で雷纏の術を解いていた。
「いや、でもほら、お前だって、その雷纏の術、使いこなせてたじゃんか!」
恒久が慌てて言うと、
「まぁーでも、ねぇ。なんか、美味しいとこ全部持っていかれた感じだよねー。」
「まぁ、そう言うなって重清。それによ、美味しいとこ持っていかれたのに、なんつーかこう、良いシーンが台無しだった感じもあったぞ。」
不貞腐れ続ける重清の頭にプレッソが乗りながら声をかける。
「あ、それおれも思った!なんて言うか、良いシーンが台無し、みたいな!」
「いやそれプレッソが言ってたのと同じことっ!
2回も言うなよ!さっきの俺、めちゃくちゃカッコ良かったじゃねーかっ!!」
「そういうとこだよな。」
「そうそう。そこはかとなく残念な感じだよね。」
プレッソと重清が恒久を哀れんだ目で見ていると、
「あんた達。本当に緊張感がないねぇ。」
呉羽が呆れた表情で近付いてくる。
「婆さん、じゃなくて呉羽さん!良い術を、ありがとうございました!」
突然、恒久が呉羽に頭を下げた。
突然のことに面食らった呉羽が、しばしの間を置いて笑い出す。
「現金な子だねぇ。婆さんでいいよ。あれだけクソババアって言われたあとに呉羽さん、じゃぁ、さすがの私も心の整理がつかないよ。」
「助かるよ。俺だって、結構頑張って呼んだからな。改めて、婆さん、良い術をありがとな。」
「いいってことよ。恒久、あんたは人を惑わす術に長けている。
伊賀の血を引くだけのことはあるよ。
あんたに与えた雷速の術は、そのスピードで更に人を惑わすことができるはずだよ。
上手く使っていくことだね。」
「おう。」
「っていうか呉羽ばあちゃん!雷纏の術、全然『それなり』の強化じゃなかったじゃん!めちゃくちゃ強化されてたよ!」
「おやそうかい?」
重清の言葉に、呉羽はただ笑っていた。
「まぁいいけどさ。っていうかさ、雷纏の術って、別に術にしなくても、普通に忍力纏えばいいんじゃないの?」
「ほぉ。重清、あんたいいとこ突くじゃ―――誰だい?」
重清に笑いかけて口を開いた呉羽は、唐突にそう言ってヒトが倒れている方へと視線を送った。
それに釣られて重清達もその視線を追うと、いつの間にかヒトの傍らに1人の男が立っていた。
「お気になさらないでください。この男を回収したら、すぐに引き上げますので。是非とも、そのままご歓談ください。」
全身黒い服を着た30代程の男が、そう言って呉羽に向かって一礼した。
「そいつには、色々と聞きたいことがあるんだ。出来れば置いてってもらいたいんだけどね?」
呉羽が鋭い視線を男に送るも、男はそれに怯むことなく呉羽に笑顔を返す。
「こちらとしては、色々と聞かれると困るので回収に来たのですが・・・」
「ほぉ、聞かれて不味いことでもやってるのかい?」
「ご想像にお任せいたしますよ。風魔呉羽さん?」
「ほぉ。私を天才美少女忍者、風魔呉羽と知っててやって来たのかい?」
「いや、せめて元をつけろよっ!今はババァ忍者じゃねぇかっ!ぐおっ!!」
「天才をつけ忘れるんじゃないよ。」
勢いよくつっこむ恒久に雷の玉を飛ばして、呉羽がつっこみ返す。
その場のほとんどの者は、心の中で思っていた。
「ババァはいいのかよ」と。
「よっと。」
そんなやり取りの最中に、そんな声を出しながらヒトを担ぎ終わった男が、
「では、失礼いたします。」
そう言って再び一礼すると、
「私から逃げられると、思ってるのかい!?」
そう言った呉羽は、瞬時に足に雷を集中させ、その場から消えた。
「おっと。」
男はそう言って、背後から現れた呉羽の拳を、担いでいたヒトを盾にして防ぐ。
「がはっ!」
ヒトは男の背で、その言葉とともに口から血を流していた。
「元弟子に、酷いですね。まぁ、この男には罰が必要でしたので、こちらの手間は省けましたが。
それと、最後に一言だけ。あなたから逃げられるからこそ、私がここに来たんですよ?」
男は笑みを浮かべて出したその言葉とともに、ふっとその場から姿を消した。
「消えた?ふむ。気配すら無くなったか。」
突然消えた男に驚きながらも、辺りの気配を探りながら呉羽は警戒を解いてそう呟いた。
「呉羽ばあちゃん、大丈夫!?」
駆け寄ってきた重清が、呉羽に声をかける。
「あいつら、消えちまったのか?あんな忍術もあるんだな。」
同じく駆け寄ってきた恒久が、感心したように呟いていた。
「いや、少なくとも私は、あんな術聞いたこともないね。そもそも、ほとんど忍力を感じなかった。
私ですら感知できないほどの忍力で、あれほどの術を作れるとは到底思えない。
あの雅のババアですら、無理だろうね。」
呉羽はそう呟いて、男の消えた場所を見つめるのであった。
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