本当のエピローグ:ある日の2人の内緒話

平八と雅が結婚して何年も経ったある日。


「平八、今日もどこかへ出掛けたわね」

変化の術で色気丸出しのシロが、何気なくそう呟いた。


平八は時々誰にも行き先を告げずに出かけることがあり、シロにとってはもはや当たり前の出来事ではあった。


このつぶやきは、隣でのんびりとお茶を啜っている雅をただ不安にさせたいという、ちょっとした嫌がらせのつもりでのことだった。


「大丈夫。別に浮気してるわけじゃないんだし」

20代へと差し掛かり、天才美少女から天才美女へと成長した雅は、当たり前のようにシロへと答えた。


平八と雅が付き合うようになってからは、度々ぶつかっていた雅とシロであったが、そんな2人もいつの間にか打ち解けていた。


シロのこの嫌がらせのつぶやきも、決して雅が憎くて言ったのではない。

2人にとって、これはただのじゃれ合いでしかないのだ。


「あら、やけに自信たっぷりじゃない。分からないわよ?平八、かっこいいから」

シロが、雅を挑発するように妖艶な笑みを浮かべた。


そんなシロに対して雅は、禍々しいまでの笑みを浮かべて答える。


「平八には、結婚するにあたって契約を結ばせたのさ。『浮気をしたら、全身がピンク色になる』って契約を、ね」

「あなた、ひどいことするわね」

シロは、雅の言葉に呆れたようにそう返した。


「そう?このくらい、あたしの夫になるんだから当たり前だよ」

「もう。そんなことするから、平八は私に手を出してくれないのね」

シロは、雅の言葉に肩を落としていた。


この頃には、シロの平八に対する想いは雅も充分に理解しており、2人だけの時にはシロも、その想いを隠すことなく話していたのだった。


「シロ、そのことなんだけどね・・・」

それまで禍々しい笑みを浮かべていた雅が、言いにくそうにシロな目を向け、ひと呼吸おいて口を開いた。


「その、なんだ。浮気ってのの中に、あんたは入れてないんだよ」

「えっ・・・」

シロは、絶句しました。


それはつまり、平八は自分の意志でシロに手を出さないということだと、思い知らされたからであった。


「そっか。私、最初からあなたとの勝負の舞台にすら、立たせてもらっていなかったのね」

シロは、寂しそうに呟いた。


「それは違うっ!」

シロの言葉に、突然雅が大声を上げた。


「あたしはね!その契約を平八と結ぶときに言ったんだよ!『シロだけは、契約の対象にしない。だから、シロの事も受け入れてほしい』って!!」

「あなたからそう言われると、なんだか腹立たしいわね」

シロは、自嘲気味に笑った。


「な、なによ!面倒臭い女ね!」

そんなシロに、雅は顔を赤らめて言い返していた。


「ふふふ。ごめんなさいね、こんな女で。それで?平八はなんと言ったのかしら?」

「『そんなつもりは、最初からない』って」


「ほらね。やっぱり私には―――」

「だから違うのよ!平八はね、あんたが『変化の術』でその姿になった日に、自分自身に契約を課したんだよ!

『シロに手を出したら、死ぬ』って契約をね!!」


「えっ・・・」

再び、シロは絶句した。


「わかる?平八はね、そうでもしないと、あんたの誘惑に耐えられる自信がなかったんだよ。そしてそうまでして、あんたに手を出したくなかったんだよ。

あたしよりも長い間平八の隣にいたあんたなら、平八の想い、わかるわよね?」


雅の言葉に、シロはただ黙って俯いていた。


「ほんと、命をかけたくなるくらい大切に思われているなんて、さすがのあたしも妬いちゃうわ。あたしが平八と契約をしたときなんかね、『もう少し、罰を緩くしてくれないかな?』って言ったのよ?

あんたには、命までかけてるっていうのに」

雅は、そう言って拗ねてみせた。


「ふふふ。ごめんなさいね。一応、付き合いの長さだけはあなたに負けないから」

そう言って笑うシロの目からは、一筋の涙がこぼれていた。

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