第71話:重清のにやけた1日
翌朝。重清の顔は未だかつてないほどニヤけていた。
(腹が立つ。この顔無性に腹が立って、理由聞きたくない!でも、気になる!)
登校中、隣でニヤニヤしている重清の顔を見て、どうでもいい葛藤をしていた聡太は、それでも誘惑に勝てず、重清に声をかける。
「シ、シゲ?なんか凄く嬉しそうだけど、何かあったの?」
「え?あぁ、ちょっとなぁー。聞きたい?ねぇ、聞きたい??」
(これ聞いて欲しいやつだー!そうなると、聞いてあげたく無くなる!でも、気になる!!)
そんな事を考えながら聡太は、敢えて突き放すことを選択する。
「いや、言いたくなかったら無理しなくていいよ?」
「え?聞きたいの?しょーがねーなぁー!」
(言いたいだけでしょっ!)
そう思った聡太であったが、結局は誘惑に負けて口を開く。
「何があったのか、教えてよー。」
「では、教えてしんぜよう。昨日さ、琴音ちゃんから連絡があったんだよ!!」
(うわ、どうでもよかったぁーーー!どうせ、大したこと言われてないやつだよこれ!)
「そ、そうなんだ。なんて??」
「この前、琴音ちゃんと会ったじゃん?あの時、逃げるように帰ってごめんって。よかったら、今度会いませんかって!!」
「へ??」
重清の言葉に、思わず間の抜けた声を出す聡太。
それも仕方がない。田中琴音は、1度重清を盛大に振っているのだ。
『連絡が来た』とはいっても、当たり障りのない事しか言ってきていないだろうとタカをくくっていた。
それがまさか、『会いませんか』と連絡が来たというのだ。
これはもしかすると・・・
「シゲ、もしかして、『脈アリ』ってやつなんじゃないの??」
先程までの葛藤など忘れたように、聡太のテンションも上がってくる。
「ちょ、バカだなー、ソウ!そんなわけなじゃんかよぉーー」
重清の顔が、更にニヤける。
(いや、これ絶対シゲもそう思ってんじゃねーか!あ、なんかツネみたいにつっこんじゃった。)
「絶対そうだってー!で?で?いつ会うのさ?」
「えー。まぁ、今日の放課後会うことにしたけどさー。」
(早速かよ!食いつきが早いよ!ピラニアかよ!!)
聡太のつっこみが開花した瞬間であった。
その日、重清は1日中ニヤけていた。
クラスメイトの後藤達が、重清の様子を気になって聡太に探りを入れると、今朝からの案件を1人で抱え込みたくない聡太は、躊躇なく後藤達に事情を説明する。
そこからは、もう大混乱である。
後藤達が重清をはやしたて、調子に乗った重清が、
「お前らも、頑張って村中さんに挑戦しろよ!」
と大声で叫ぶ。
それを聞いた後藤達は重清を抑え込み、重清の言葉を聞いた他のクラスメイト達は後藤達をはやしたてる。
クラスのマドンナ、村中だけは、悲しそうな、寂しそうな表情をしていることに気付いている者は、騒ぐ男子の中では聡太だけであった。
更に、重清の件を聞きつけた担任の田中は、その日1日重清への当たりが強くなり、かたや重清は、
「これも愛の試練なんですね、お義父さん!」
と騒ぎ出し、もはや事態の収集は不可能となっていた。
もう、下手したら学級崩壊レベルの騒ぎである。
田中は、ここまでプライベートを仕事に持ち込んでも良いのであろうか。
そんな騒ぎを起こしながらも、ニヤニヤが止まることのない重清は放課後、その顔のまま忍者部の部室へと入っていく。
すると、部室には雅の姿があった。
「ん?ばあちゃん、珍しいね。こっちにいるなんて。どうかしたの?」
雅の姿に、ついニヤニヤを強張らせながら、重清が尋ねる。
「おや、重清かい。どうしたんだい、そんな変な顔をして。まぁそれはいいか。ちょっと、事情が変わってね。ノリに話があるのさ。」
「はいはい、なんでしょう?」
雅がそう答えていると、ノリがそう言いながら部室へと入ってくる。
「ノリや。以前話していた件、すまないが今日、やらせてもらえないかい?」
「約束では、修行の最終日ということになっていたと思いますが・・・
そんなにまずいんですか?」
「あぁ。もう限界が近い。」
「そうですか。ならば仕方ないですね。」
ノリが微笑むと、
「すまないね。」
そう言って雅は、重清へと向き直る。
「重清。すまないが今日は、属性の修行は無しだよ。その代わり、ちょっと別の修行を用意した。」
「別の修行?」
「あぁ。ついてきな。ゴリや、すまないが今日は、別の修行をやっといてくれないかい。」
「俺は行っちゃダメなんですか?」
「来るぶんには構わないが、今日の修行は重清用に準備したもんだ。あんたにやれることは何もないよ?」
「構いません。雑賀家の修行がみられるのであれば、それだけでありがたいです。」
「そうかい。好きにしな。」
そう言って微笑むと、雅は他のメンバーに視線を送る。
「みんな、今日はあたしたちの方に近づかないようにしておくれよ。近づくと、危険だからね。」
そう言う雅の言葉に一同は、思う。
(一体何が行われるのか)
と。
そしてノブだけは、考えていた。
(あれ。俺、行くなんて言わなければよかったのでは。)
と。
そんなノブの考えが分かったのか、忍者部一同は、そっとノブから目を逸らしていた。
「裏切り者め・・・」
そんなノブの言葉を残して、重清達は雅について部室をあとにする。
「ばあちゃん、どうしたのさ急に」
重清が、雅の後ろを歩きながら雅に問う。
雅は、それに振り返ることなく答える。
「公弘たちが言ってたろ?あんたの新しい術に関しちゃ、あたしにも考えがあるって。元々、そのために考えていたことだよ。まぁ、予定よりも早まっちまったがね。」
「さっきもそんなこと言ってたけど。何をするのさ??」
重清が恐る恐る、雅に尋ねる。
その時、重清の目の前が開ける。
そこには、重清に向き返す雅と、その先に一人の女が立っていた。
白い髪を腰まで伸ばした女は、胸元の大きく開いたドレスを着ており、そのドレスには傍目に見ても分かるほどに大きな双丘が包まれていた。そして、ドレスの足元からはすらっとした白い足が伸びており、腰元まで伸びたスリットが、それを見え隠れさせていた。
女の発する色気に、重清とノブが鼻血を垂らす。
「重清、あんたにはこれからこいつと戦ってもらうよ。」
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