第160話:空を制する?
「では、甲賀ソウ。必ず今の状況を無事に生き抜きるのだ。」
オウは聡太への秘密のアドバイスの後、そう言って力強く聡太の肩へ手を置いた。
「はい、師匠!ありがとうございましたっ!」
「ぐぁっ!!その笑顔でその言葉、儂もう死んでもいいかも。」
「いや死なないでよ、おじいちゃん。」
「ぐぉぉっ!!ってお主、わざとやっておるだろう!?」
「いやなんか、反応があまりにも面白いから。」
「面白いて。まったく。ほれ、もういいからとっとと行って来い。
絶対に、無事に戻ってくるんだぞ。」
「うん!おじいちゃん!色々ありがとー!」
聡太は言いながら手を降りながら、そのままフッと消えていった。
「ふむ。弟子とは、良いものだのう。雅様のお気持ちが、よく分かるわ。」
聡太が消えた後、オウは呟いて笑みを浮かべるのであった。
「うわぁっ!」
聡太は、仮りそめの『喫茶 中央公園』へ飛ばされる直前の状況に再び戻った。
それはつまり、黒服の男に殴り飛ばされた直後である。
それまで、聡太という玉を使ったピンボールゲームに勤しんでいた男は、聡太を殴り飛ばした直後、その聡太の背後に回る足を止めた。
「ぐぁっ!」
それにより、正面から近くの木に衝突し、声を上げた。
「おや。あなた今、一瞬気配が無くなりましたね。」
男は訝しげな目で聡太を見ていた。
「いつつつ。ちょっと色々あって、師匠とおじいちゃんが同時にできました。」
何とか立ち上がった聡太は、木にぶつかったダメージに声を漏らしなが男に振り向いて、無理矢理笑顔を作る。
「ちょっと言っている意味は分かりませんが、もしや雑賀雅の術ですか。
おかしいですね。今は雑賀雅ですら、術による介入は出来ないようにしているはずなのですが・・・」
男はそう言って首を傾げていた。
「術による介入ができない?もしかして、だからぼくもノリさんと連絡ができないのかな。」
「ほぉ、そんなことをしようとしていたのですか。どういった方法かはわかりませんが、もしもそれが忍力を使う方法でしたら、きっと無理ですよ。」
「あれ、でもノリさんの位置はわかったような・・・」
「それも先程のレーダーの力ですか。凄いですね。いくら雑賀雅対策に外からの介入にかなりの力が使われているとはいえ、ここから甲賀ノリの位置を感知するとは。その力、それなりの練度になっているようですね。」
男は少し驚いたように聡太を見ていた。
感知の力が強いレーダーは、甲賀ソウが忍者になった日から使われ続け、さらにそのレーダーと聡太の意識が共有される『同期』も、聡太が使い続けた力である。
それにより聡太の『同期』の力は、それなりに練度が高くなっているのであった。
それはさておき。
微妙に褒められた聡太は、微妙な表情を浮かべて男を見る。
「っていうか、そんな力も持ってるんですね。」
「いえいえ、これも私ではなく、別の仲間の力ですよ。」
男は笑顔で聡太に答え、
「さて、そろそろお喋りは終わりにしましょうか。私も重清君の所に向かいたいですし、申し訳ありませんがあなたには少し、眠っていただきましょうかね。」
そう言って男がまたその場から姿を消したのと同時に聡太は、
(飛翔の術っ!)
術を発動する。
聡太の周りに風が発生し、それらが聡太をふんわりと包んでいく。
そのまま聡太は、流れる風のように空中へ舞い上がった。
「ちぃっ、飛翔の術ですか!?」
聡太のいた場所で蹴りを空振った男が、空を見つめて呟いていた。
そして、そのまま男はその場で踏ん張り、空へと飛び上がる。
「うわぁっ!!」
自分に向かってくる男を文字通り飛んで避けた聡太は、
「あぁ〜〜れぇ〜〜。」
横に飛びながら縦にクルクルと回っていた。
「慣れないっ!!」
何とかクルクルを止めて空中に留まった聡太は、焦り顔で叫ぶ。
(やっぱり、少しは師匠に教えてもらえばよかった。)
後悔の念に襲われる聡太は、それでも気持ちを切り替えて地に落ちていく男を指差して叫ぶ。
「空を制する者が戦を制すっ!!」
「いや、制しきれていないでしょう。」
地に着地した男は、小声でそっとつっこんでいた。
「しかし、これで少しは楽しめそうですね。重清君の所へ向かうのが、ほんの少しだけ延びそうですね。」
男は聡太に聞こえるように言って笑った。
「それは、どうでしょうね!行きますよぉーーーーーー」
言いながら聡太は、そのまま男とは別の方向に飛んでいった。
「ん??」
男が呆気にとられてそれを見ている間に、聡太は若干不安定ながらも木々の上をスゥーっとそのまま飛んでいき、やがて小さく、見えなくなってしまった。
「逃げた、のですか?」
そう、聡太は逃げた。
これぞ、新たな師より授かったアドバイス。その名も、
『一旦戦闘を回避してさっさとノリと合流する作戦(オウ命名)』
そのまんまなのである。
「まさかここで逃げるとは。しかも重清君の方向ではなく甲賀ノリの方に行くとは思いませんでしたよ。
これは、さっさとズラ帰ったほうが良さそうですね。」
この作品でズラは禁句なのだが、男はそう呟いて重清のいる方向へと走り出すのであった。
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