第401話:長話(+脱線)を終えて
「そっか。シロ・・・今はチーノだったね。チーノも、楽しそうみたいでなによりだよ」
ほぼ丸2日かけて重清の話を聞いた平八は、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まぁ、それなりに楽しくやってるとは思うよ?まぁ時々、寂しそうな顔してるけどね。あれ、絶対じいちゃんのこと思い出してるよ。チーノはいつも否定するけどね」
「彼女にも、色々と不便をかけたからね。重清から、謝っておいてくれないか?」
ニヤニヤしている孫に、平八は苦笑いを浮かべた。
「チーノ、多分そんな言葉、聞きたくないんじゃないかな」
平八の言葉に、重清はう〜んと唸って答えた。
「確かにね。流石は重清。じゃぁ変更するよ。『これからも孫を頼んだぞ、私の大切な相棒』って伝えてくれないか?」
「うん!そっちの方が、きっとチーノも喜ぶよ」
重清は、満面の笑みを浮かべて頷いた。
そんな重清を、今度は平八がニヤニヤ顔を浮かべて見つめた。
「しかしまさか、重清があの本家の美影ちゃんを落とすとは思わなかったなぁ。そんな所まで、私に似なくても良かったのに」
「うぐっ」
平八の仕返しに、重清は言葉を詰まらせた。
「お、おれは、困ってるんだけどね」
「でも、美影ちゃん可愛いじゃないか」
「まぁ、それはそうなんだけどさぁ・・・」
「さっき話に出てきた、琴音って子のことが気になるんだね?」
「ま、そうだね」
重清はそう言って、素直に頷いた。
「それにしても、捨て忍の集団、か」
平八は、重清の話を思い出して呟いた。
「じいちゃん、その人達のこと何か知らないの?」
「まぁ、思い当たる節がある無いこともないな・・・」
そう言った平八はしばし考え込み、そして重清を見つめた。
「重清の話だと、その彼らは明確に重清を狙っている。もしかすると、当主になることを知っていたのかもしれない」
「じいちゃんの遺言って、みんな知ってる事なの?」
「いや、ごく限られた者にしか伝えていない。そのうちの誰かが、漏らしたんだろうな」
平八は、悲しげな表情を浮かべて遠くを見つめていた。
その『誰か』すらも、見透かしているような悲しい瞳で。
「じいちゃん、その誰かって、分かってるでしょ?」
「そう、思うかい?」
「なんとなくね。それで、じいちゃんは誰が漏らしたと思ってるの?」
重清の言葉に、平八は小さく笑った。
「重清。私は既に、死んでいる身だよ?その私に頼っちゃいけないよ。今を生きる、重清達で解決しないとね」
そう言いながらも平八は、重清へと頭を下げた。
「とはいえ、この件は私に責任がある可能性が高い。
偉そうなことを言って申し訳ないが・・・重清、どうか彼らを救ってやってくれないか」
突然頭を下げた平八に戸惑いながらも重清は、
「え、いや。救うって・・・襲われてるのはおれなんだけどな」
そう、頭をかきながら平八へと返した。
「もちろん、それはわかっている。彼らの目的も、なんとなくだが察しはついている。だからこそ私は、重清に彼らを救ってほしいと思っているんだ。重清は、全てを守りたいんだろ?」
平八は、そう言いながら顔を上げた。
「それは、そうだけど。じいちゃん、それだけ言うなら、あの人達の目的くらい教えてくれてもいいじゃん」
重清は、兄達から抽象的だと言われた自身の目標を、平八が口にしたことに若干の恥ずかしさを感じながら、口をとがらせた。
「いや、それは彼ら自身の口から聞いてほしい。そして、それを聞いて、重清自身でどうしたいのか考えてほしいんだ。
その時に彼らを守るべきでないと判断したならば、重清のやりたいようにしてくれて構わない。
今はただ、私の言葉を頭の片隅に置いてくれればいい」
平八は、優しく微笑んだ。
「まぁ、とりあえずはわかったよ。あの人達、めちゃくちゃ悪人って風にも思えないからね。まぁ、善人とも思ってはいないけど」
重清も、平八に対して笑いながらそう答えた。
「ありがとう、重清」
平八はそう言うと、腕時計もないのに腕に目を向けた。
「もうかなりの時間を過ごしてしまったね。そろそろ、元の世界に戻るかい?」
「・・・そうだね。もっとじいちゃんと話したい気持ちもあるけど・・・いつまでもそれじゃ、ダメだよね」
重清は、平八へと強く頷いた。
「わかった。じゃぁ・・・・・あ」
孫の強い意志のこもった瞳に満足した平八は、言葉を途中で止めて髪のない頭を掻いた。
「えっと・・・重清、私さっき言ったよね?この術は私の忍力が無くなれば解ける、って」
「うん、言ったね」
「逆に言うとね、忍力が無くならない限り、この術は解けないんだ」
「そうなんだ。それで、忍力はあとどのくらいで無くなりそうなの?」
「3年くらいかな?」
「長っ!!」
平八の言葉に、重清は叫んだ。
「いや〜、最後の最後で、やっちゃったね。どうしようかなぁ」
平八は困った様子もなく、顎に手を当てて考え始め、すぐに何かを閃いたようにニヤッと笑った。
「ここでは、私は術を使うことができない。あるのは忍力だけ。これって、丁度いいハンデだよね?」
「ハ、ハンデ?」
何やら嫌な予感のした重清は、身構えながら平八の言葉の続きを待った。
「重清、私の忍力が尽きるまで、手合わせをしよう」
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