第19話:雑賀 重清
祖母の突然の話に、重清は着いていけていない。
(え、ばあちゃんが忍者?なんで??そして、なんで急にキャラ変わってるの!?)
突然の出来事に狼狽える重清を見て、雅は笑う。
「突然のことに、戸惑ってるみたいだね。昔からあの人が言ってただろう?お前は忍者の子孫だって。あれは事実なんだよ。あんたは正真正銘、雑賀の血を引く、忍者の子孫なのさ。」
「マジか。おれホントに忍者の子孫なのか。って、それもびっくりしたけど、ばあちゃんその喋り方、どうしちゃったのさ!?」
重清が思い切って雅に聞く。
「これかい?これが本来のあたしの話し方さ。普段のあたしは、言わば世を忍ぶ仮の姿ってやつさ。」
そう言って、雅はウインクする。
(いや、ばあちゃんのウインクとか!)
心から叫ぶ重清をよそに、話は進む。
「あんたの本来の忍名は、『雑賀 重清』」
「おれの忍名が、雑賀 重清···」
重清がそう呟くと、一瞬力が湧き出そうになりながら、それを別の力が抑えるような感覚があった。
「い、今のは?」
重清が戸惑っていると、雅が満足そうに言う。
「忍者の血を引く者は、忍者であることを自覚し、忍名を受け取ることで、その者本来の忍者としての力が引き出されるのさ。これが、古来より行われてきた『血の契約』だ。しかしあんたは今、血の契約により引き出されるはずだった力が邪魔されたように感じただろ?それは、あんたが『甲賀シゲ』として行った契約が邪魔をしてるからなんだよ。だからまずあんたは、先に結んだ契約を、破棄する必要がある。」
「契約の破棄?」
重清が首を傾げる。
「難しいことじゃない。契約を結んだ時に、契約書を貰ったろ?あれを破っちまえば、契約は破棄されるのさ。」
「へぇー、そうなんだぁ〜・・・あ。」
その話を聞きながら、重清は思い出す。
「どうしたんだい、そんな間の抜けた声を出して。」
「いやー、契約書さ、さっき先生に渡しちゃった。よし、おれ今から取ってくる!」
「待ちな。まったく、あんたはせっかちだね。その先生とやらは、契約書をどこに仕舞ったんだい?」
「忍者部の部室に入れてたよ。」
「だったら、行くのは今じゃない。日付が変わってからだね。」
「なんで今じゃダメなのさ?」
「よく考えな。あんた、今日も試験受けてたんだろ?ってことは、既に今日の忍者部での活動時間は残ってないんじゃないのかい?」
「あ。ってことは、明日先生に言って、契約書返して貰わなきゃ!」
「いや、それもダメだ。既に『甲賀シゲ』としての力が、あんたに定着しつつある。明日の夕方までは待てない。」
「えっと、じゃぁどうすれば?」
重清が首を傾げて雅に尋ねる。
「普通、夜中に学校に侵入なんて絶対認めやしないが、今回は仕方ない。」
雅が、ニッと笑って重清を見る。
「え、夜中に学校に侵入!?そんなことして、大丈夫なの!?」
「だから言ったろ、仕方ないって。というわけで、雑賀重清。あんたには日付けが変わる24時、学校に侵入し、忍者部の部室へと向かい、契約を破棄してくるんだ。」
「えっと、1人で?」
「甘えるんじゃないよ。これも、あんたが忍者となるための、試練だと思ってやることだよ。でも、その前にひとつ大事なことをやらなきゃならないよ?」
「大事なこと?」
「あんた、友達に酷いこと言ったんだろ?こういうのはね、時間が経つほど謝りにくくなるもんだ。今すぐ、謝っておいで。」
それまでとは違う優しい笑顔で、雅は重清にそう告げる。
重清は笑顔で、
「うん!おれ、行ってくる!」
そう言って、玄関へと走り出す。
「今日の24時、忘れずに行くんだよ!」
「おぅ!ばあちゃん、ありがとなー!」
そう言って重清は、雅の家を出ていく。
「まったくあの子は、ホントに慌ただしいんだから。」
雅が、祖母の顔で、そう呟くのであった。
祖母の家を出た重清は、真っ直ぐに聡太の家へと向かう。
インターホンを押すと、聡太が出る。
「ソウ、ちょっと話がある。出てきてくれるか?」
「わかった。」
そう言って、聡太が戸惑った顔で家から出てくる。
そんな聡太を見た重清は、頭を下げて涙を浮かべながら言う。
「ソウ、さっきは本当にごめん!おれ、自分が焦ってたからって、ソウに当たるようにあんなこと言っちゃって。それに、それまでも最悪な態度とってて。本当にごめん!」
「はぁー。」
そんな重清の言葉を受けた聡太は、そんなため息をつく。
そのため息を聞いて、重清は恐る恐る顔を上げる。
そこには、笑顔の聡太がいた。
「まったく、こっちがどれだけ心配したかわかってる?シゲが普段、あんなこと言わないのわかってるから。だからこそ、本当に追い詰められてるんだって、めちゃくちゃ心配したんだよ?それなのに、家にもいないし。さっさと謝りに来いってんでぃ!」
「いや、なんでそんな口調なんだよ!」
咄嗟につっこんだ重清に、聡太は笑い、それにつられて重清も笑う。
「こ、これで、仲直り?」
重清の言葉に、聡太は笑顔で頷くのであった。
「よかったー!試験クリアできないことなんかより、ソウと仲直り出来ないことの方がきついからなー。」
そんな重清の言葉に喜びながらも、聡太は戸惑った表情を浮かべる。
それに気付いた重清が続けて言う。
「あ、そうは言っても、試験諦めるつもりはないぞ?あのあとばあちゃんと話して、どうにかなるかもしれなくなってきたし。」
「話?」
「あぁ。その事については、明日、おれが全部の試験クリアしたら、ちゃんと話す。だから、今は秘密。」
そう言って、重清は笑う。
「気になるけど、楽しみにしとくよ。まぁ、ぼくもまだ、試験残ってるんだけどね。」
そう言って苦笑いする聡太を見て、重清は数日前に気付いたことを思い出し、それを聡太に告げる。
「なるほど、それは気付かなかった。でも確かに、試してみる価値はあるね。もー、もっと早く教えてくれれば良かったのにー。」
重清の話に感心しながら、聡太は不満そうに言う。
「それも含めて、ごめんなさい、なの!」
重清がそう言うと、2人は笑い合うのであった。
「あ、シゲまだプレッソ出して無いでしょ?父さんまだ帰ってないから、ウチの中で出してあげたら?」
そう言われて、シゲはプレッソを具現化して、聡太につげる。
「じゃ、明日な。2人で、試験クリアしてやろうぜ!」
「うん!でも、ツネも忘れないであげてね。」
そう言い合って、2人は別れる。
重清は、頭にプレッソを乗せ、家(聡太の家の隣だが)に帰りながら考える。
(今夜、か。学校に侵入とか、めちゃくちゃ怖いな。)
と、どこか緊張感の抜けたことを。
そして、両親が寝静まったであろう24時の少し前、重清はプレッソと共に、静かに家を出て学校へと向かう。
そのまま、誰にも会うことなく学校の正門へと到着する。
正門から中をのぞくと、警備員らしき人が、中を巡回しているようだった。
(うわぁ~、警備員さんとかいるよ~。これ、見つかったらやばいじゃん。)
重清がそう考えていると、背後で気配がする。
(やべっ!)
そう考えて身を隠そうとするも、周りに隠れられる場所もなく、重清は背後から現れた気配の持ち主と、対峙することとなった。
そして重清の目の前にいたのは・・・
「あれ、ツネ??」
「ん?シゲか??」
恒久であった。
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