第294話:重清、偉そうに語る

クラスの面々で今泉の台本を読んで3週間後。


遂に待ちに待った文化祭当日。


多くのクラスが、悪しき2中の伝統に従って微妙な制作物を展示することでお茶を濁している中、重清達のクラスは3年生以外で唯一、劇を披露した。


忍ヶ丘2中文化祭では、披露された劇を教師たちが審査し、順位をつけることとなっている。


3年生だけでなく、2年生達からも冷たい視線を送られながら、重清達1年3組は今泉の台本のもと日々重ねた練習の成果を発揮し、転生した勇者が魔王に頭を垂れる最後の場面で、会場は大いに湧いた。


主に、他の1年生のクラスの中で。


そう。重清達が演じたのは、転生モノ。


転生モノでどうやって教師達が納得するストーリーができたのか。

そして何故転生したはずの勇者が魔王へと頭を垂れるというなんとも言えないラストで会場が湧いたのか。


本来であればその大まかなストーリーに触れるべきであろうが、簡単には説明できないため今回は泣く泣くカットなのである。


いやほんと、残念だ。


そしてそのまま、劇の審査結果発表となった。


重清達1年3組は、見事3年生3クラスを押しのけての頂点に立つ・・・・


ことはなかった。


結果は、最下位であった。


教師達が、2中の隠れた伝統を重んじたためか。

いや、そうでは無かった。


審査員達は口々に、『1年3組には気迫が無かった』と言葉を漏らした。


そう。気迫である。


3年生達は過去2年間、2中の悪しき風習に耐え、この日を迎えていた。

やっと文化祭で、劇をやることができたのだ。


その彼らの喜びと劇に対する想いは、1年3組のそれとは比べ物にならなかったのであった。



「負けちゃったね」

結果を聞いていた重清の元に、聡太が寄ってきた。


「あぁ。まぁ確かに、先輩達の気合は凄かったからな。ショウさんの王子様姿とか、おれ惚れそうになったもんな」

重清は、笑っては聡太に答えた。


「シゲ、全然悔しそうじゃないんだね」

聡太は、目を潤ませて言った。


『勇者(♂)の恋人役(♂)』という大役を必死にやり抜いた聡太は、悔しそうな目で重清を見ていた。


「まぁ、俺にとっては、劇やる事自体がゴールみたいなもんなだったからな」

「それって、今泉君に関係してる?」

聡太は涙を拭いながら、重清へと問いかけた。


「まぁね。今泉君さ、前に言ってたんだ。『やりたい事が無くて学校行く意味無い』って。おれさ、その時、凄いなぁって思ったんだ。

おれさ、特にやりたい事がないんだよね。

部活の時だって、『全てを守る』なんて言ってるけど、あれもほとんどノリで言ったとこあるし」


「やっぱりあれノリだったんだ」

聡太が、苦笑いで重清に返した。


「へへへ。ソウにはバレてたか。でもさ、おれと違って、ツネと茜は、やりたいこと見つけたろ?ソウだって、『おれを支える』なんて言ってくれたろ?

なのにおれは、何もやりたい事がない。


でも、それを気にもせずにおれは普通に学校に来ちゃってる。なーんにも考えずに、ね。

それに比べて今泉は凄いよ。ちゃんと自分で考えて、学校に行かないって選択をしたんだから。

そう思ってたらなんかおれ、今泉君が何かやりたい事見つけてくれるといいなぁって思ってさ。


ま、その結果、さらに学校に来ないって可能性もあるんだけどね」

重清は、そう言って聡太へと笑みを向けた。

どこか淋しげな、笑みを。


その顔を見た聡太は、重清の肩を軽く小突いた。


「シゲはさ、今のままでいいと思うよ」

「ん?どゆこと?」


「シゲは、色んなこと考えない方がいいんだよ。今まで通り、『全てを守る』ってことだけ頭に入れてれば。今は何も守りたいものは無いかもしれないけど、いつかできるその時のために、その想いだけ持ってればいいよ」


シゲは1つの事くらいしか、考えられないだろうから。

そう付け加えながら、聡太が重清に笑いかけて、重清の背後の人影に気付いた。


「シゲにお客様みたいだよ」

聡太の言葉に振り向くと、今泉が大泣きしながらその場に立っていた。


「鈴木。ごめん!俺の台本が悪かったばっかりに、負けちまった!」


そう言って泣く今泉に、重清は笑いかけた。


「今泉君、見に来てくれたんだね。っていうか、今泉君でも泣くんだね」

「泣くよ!だって、俺のせいで皆の苦労が台無しになったんだぞ!?」


「えー、そうかなぁ?今泉君の台本、最高だったよ?

もちろん、皆の演技もね」

「おっ、お前は悔しくないのかよ!?」

今泉は、そう言って重清を見つめていた。


「んー。おれは、今泉君の涙が見られたから大満足かな?」

「なっ、お前、俺を泣かせたかったのかよ!?」


「いや、そうじゃないんだけどさ・・・」

重清は困り顔を浮かべながら、今泉同様泣きじゃくるクラスメイトを見つめた。


「これも、学校に来る意味なんじゃないかなーって思ってさ」

「え?」

重清の言葉に、今泉は固まった。


「前に言ってたでしょ?学校に来る意味無いって。

こういう経験ができるのも、学校なんじゃないかなぁって。

よく言うじゃん?誰かといると、喜びは倍に、悲しみは半分に、って。でもおれさ、学校って、そんな場所じゃないと思うんだ。


喜びたくても、周りの目を気にして喜べないこともあるし、こんな時は、1人で何かやった時の何倍も悔しくて、悲しくなる。

今の今泉君みたいに、自分のせいで皆を悲しませた、ってね。


そんな経験、大人になったらなかなかできないと思うんだよね。

だから、そんな経験できるだけでも、学校に来る意味はあるのかなぁって」


重清の言葉に、今泉は涙を拭いて押し黙り、ボソリと言った。


「お前、ムカつく」


「えぇ〜、おれ今、まぁまぁ良い事言ったと思ったのに!」

「それが顔に出てんだよ!すっげー『してやったり』って顔!」


「あははは。まぁ、それは否定しないかも」

そう言って笑う重清の耳に届かない程小さな声で、


「ありがとな」

今泉は小さく呟いたのであった。



その数日後。今泉は忍ヶ丘第2中学校へと登校した。

本人がその理由を語ることはなく、文化祭での活躍もあり、今泉は何の問題もなくクラスへと溶け込んでいった。1年3組はついに全員が揃うこととなったのであった。


その後今泉は、謎の相方と共に漫画家を目指すこととなる。

今泉が原作を、謎の相方が絵を担当し、『ナウソカベ』というペンネームで。


彼らの漫画が世間を沸かせるほどの対策となるのか。それはまだ、誰にも分らないことなのであった。

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