第290話:重清、文化祭の出し物を考える

「はーい、みんな静かにー!これから文化祭の出し物考えるぞー」

1年3組の教室で、重清のクラスメイトである後藤が前に立ち、クラスメイト達に声をかけた。


忍ヶ丘2中ではもうすぐ文化祭がある。


今はその出し物を決める、大事な会議の時間なのである。


ちなみに担任の田中は、『生徒達の自主性を重んじる』という大義名分の元、職員室へと戻り仕事をしながらの柿の種タイムなのである。


「まぁ、つっても、俺ら1年じゃ、やれることは限られてるんだろうけどな」

司会を買って出た後藤が自嘲気味に笑うと、クラス中でため息が重なった。


「え?なになに?何で1年はやる事限られるの!?」

重清が周りを見ながらそう言うと、ほとんどの生徒が重清を『こいつ、マジで言ってんの!?』という顔で見つめていた。


重清の親友聡太も、重清を苦笑いで見つめていた。


「え?え??なに!?なんでそんな顔でおれを見るの!?」

クラスメイト達からの冷たい視線に、重清がオタオタしていると。


「シゲ、お前知らないのか!?」

前に立つ後藤が、驚きの顔で重清を見ていた。


「2中ではな、演劇みたいな文化祭のメインイベントは、3年生しかできないって伝統があるんだよ」

後藤の言葉に、クラスメイト達は一斉に頷いていた。


しかし重清は、


「演劇・・・・」


後藤の言葉に1人考え込み、突然、


「それだ!!」

そう叫んで立ち上がった。


重清の脳内には、数日前の出来事が浮かんでいた。




それはここ最近の重清の日課となっている今泉宅での事。


部屋へと入ることを今泉から許可された重清は、その日も今泉の部屋で漫画を読んでいた。


「お前さぁ、これだけ本あるんだから、漫画読まずに本も読めよ」

今泉はパソコン画面を見つめ、キーボードを打ちながら重清へと声をかけた。


「えー、おれ本苦手なんだよねー」

重清がそう言うと、今泉はパソコンから目を離して立ち上がり、本棚から1冊の本を出しで重清へと渡した。


「じゃぁ、これなんかどうだ?」

「異世界転生?あぁ、聞いたことはあるけど・・・」


「これ、内容はゲームっぽいから、読みやすいぞ」

「おっ、それならおれにも読めるかな」


「とりあえず貸してやる。試しに読んでみろよ」

「サンキュー。っていうか、今泉君はいつも、パソコンで何やってるの?」


そう言いながら重清は、読んでいた漫画を置いて立ち上がり、今泉のパソコンへと近づいた。


「ちょ、見るな!」

今泉が慌てて重清を静止しようとするも時すでに遅く、重清はパソコン画面を食い入るように見つめていた。


「今泉君。これって・・・・今泉君もしかして、小説書いてるの?」

「・・・・悪ぃかよ。笑いたけりゃ笑えばいいだろ!」

今泉は、そう言いながら重清をパソコンから引き剥がした。


「いやいや、なんで笑うんだよ。凄いじゃん!」

そう言って重清は、今泉を尊敬の眼差しで見つめていた。


「いや、別に凄くなんか・・・」

「凄いって!今泉君、あるじゃん!今泉君のやりたいこと!」


「こ、これはただの暇つぶしで、別にやりたいわけじゃ・・・」

「ねぇねぇ、どんなの書いてるの?おれ、読んでみたい!」


「ぜってーやだね」

今泉は、被せ気味に重清へと返した。


「えぇ〜、ケチ〜」

「うるせぇっ!お前もう、今日は帰れっ!」


「そんなに怒んないでよ。分かったって。今日は帰るから」

重清はそう言いながら、先程今泉から借りた本を手に持ち、


「じゃ、また明日な」

そう言って部屋を後にしたのだった。




そんな事を思い出していた重清は、文化祭の出し物を決めるこの大事な話し合いの場で、誰よりも目を輝かせて言った。


「みんな、演劇やろうよ!」


「はぁ!?」

クラスメイト全員が、声を揃えた。


「シゲ、お前俺の話聞いてたのか!?」

司会役の後藤が、重清を見て呆れ声で言った。


「いや、聞いてたけどさ。そもそもおかしいじゃん!演劇を3年生しかできないなんて。そんな伝統、まちがってるって!」


「なっ、バカ!声が大きい!!」

重清の言葉に後藤は慌てて重清の元へと駆け寄ってその口を塞ぎ、周りのクラスメイト達も何かに怯えたように静まり返っていた。


「ぶはぁっ!ちょ、正、苦しいって!何なんだよ急に!」

重清は後藤の手を払い除けて叫んだ。


「何てこと言ってんだよバカ!さっきのがもしも生徒会の奴らに聞かれたら・・・・」


「おぉーーっほっほ!我が校の伝統を否定するのは、どこのバカかしら?」

後藤が重清に掴みかかっていると、教室の扉からそんな声が聞こえた。


「ヤバっ!」

後藤はその言葉を残し、重清の後ろへと隠れた。


「ガラガラっ」

その時、扉が開け放たれ、そこから髪を縦ロールに巻いた、いかにもな女子生徒が悠然と1年3組へと入り込んできた。


「お、お姉様・・・」

クラスメイト達が目を伏せる中、長宗我部氏だけがボソリと呟いた。


「ちっ、現れやがったな。生徒会長、長宗我部 卑弥呼ひみこ


重清の背に隠れた後藤が、重清にだけ聞こえるほど小さな声で呟いていた。

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