第362話:体制を整えよう

「あっ!」

空中から智乃に『火砲かほうの術』を放っていたソウは、恒久達へと目を向けて声を漏らした。


重清の放った『弾丸の術』を受けた2人の足元が氷に覆われ、2人とも身動きが取れずに藻掻いていたのだ。


「あら、あの2人ピンチじゃない」

先程までソウの攻撃から逃げ回っていたはずの智乃が、いつの間にか宙に浮かぶソウの隣に浮かび、アカ達へと目を向けていた。


「・・・・チーノ、メチャクチャ余裕があるみたいだね」

何事もなかったかのようにそこにいる智乃に、ソウは苦笑いを浮かべていた。


「そんなことはないわ?聡太、段々私の動きを読んでいたでしょう?後半は、軽く本気で逃げていたわよ」

智乃はあっけらかんとした様子で、ソウへと返した。


「軽く、ね」

智乃の言葉に乾いた笑いとともに、ソウはそう言って智乃に目を向けた。


「えっと・・・」

「行ってあげなさい」

ソウが言い淀んでいると、智乃は微笑みを浮かべながらアカと恒久を見て、頷いた。


「いいの?」

そう言って不思議そうに目詰めてくるソウに、智乃は微笑んだ。


「えぇ。元々はあなたの頼みを聞いて相手をしていただけですもの。あなた1人では、連携にならないでしょう?」

「まぁ、そうだね」


「それに――――」

そう言って智乃はソウの背後へと目を向け、


「お迎えもこっちに向ってるみたい」

「そうみたいだね。じゃ、お言葉に甘えて、ぼく行くねっ!」

ソウはその言葉を残し、アカと恒久の元へと飛んでいった。


「さてと。私も1度、戻ろうかしら」

智乃はそう言うと地面へと降り立ち、そのまま重清の元へと歩みを進めていった。



「にっしっし〜。どう?おれの水弾すいだん氷弾ひょうだん。動けないだろ?」

足元を氷で覆われたアカと恒久を前に、重清が満面の笑みを向けていた。


「こんな可愛いわたしを身動き取れなくして、どうするつもりよっ!?」

上半身をクネクネさせながら、アカは重清を睨みつけた。

その姿はさながら、囚われた姫(アカ的には)であった。


「いや、どうもしないし。っていうかどうしよう。何も考えてなかった。

なぁツネ。おれはこのあと、どうすればいい?」

重清は姫に雑に返すと、恒久へと目を向けた。


「いや知らねぇし!」

恒久がそう返していると、2人の足元から風が巻き起こった。


「うぉっ!」

「きゃっ!」

恒久とアカが声を上げている間に2人の足元の氷を砕いたその風は、そのまま勢いを増して2人を上空へと巻き上げていった。


「おっと」

上空に飛ばされた2人の腕を捕まえたソウが、


「重いっ!」

2人分の体重に声を上げた。


「ちょっとソウ!女子に重いは失礼じゃない!?」

「今はそこじゃねぇよ!ソウ、助かった!」

アカの非難の声を制して、恒久はソウを見上げた。


「とりあえず、救出は成功、かな?シンさんとノブさんがこっちに向ってる。1度合流しよう!」

「ちょっと待って!シゲから逃げるって言うの!?」

アカは再びソウへと非難の声を上げた。


「アカもツネも、少し忍力が減ってる。それにシゲ、水の忍力が使えるようになったんでしょ?2人だと相性が悪い」

「アカ、ソウの言うとおりだ。ここはいったんシンさん達と合流して、体制を整えよう」


「・・・・・わかったわ。わたし達の部長が言うんだから、従うわよ」

「おいアカ!今の部長ってのは、ソウじゃなくて俺のこだよな!?」


恒久がそんな叫び声を上げながらも、3人はそのままフラフラと宙に浮いてその場を後にするのであった。


「あらら。逃げられちゃったね」

重清はそんな3人を眺めながら呟いた。


「追いもしないで、よく言うわね」

重清の元へと戻ってきた智乃が、重清へと声をかけた。


「あ、智乃おつかれさん。ロイも、2回も足止め頼んじゃって悪かったね」

「えぇ、おつかれさま」

「ほっほっほ。気にするでない」

智乃とロイが重清へと返すなか、重清は辺りをキョロキョロと見回していた。


「あれ?玲央は?」

(オイラならここにいるぞ)


「うぉっ!びっくりした!プレッソ、いつの間におれんとこ戻ってたんだよ!?」

突然頭の中に響いたプレッソの声に、重清は声を上げた。


(重清が珍しく集中してるときに、な)

「プレッソは、聡太に負けちゃったのよ。だから、今日はもうお休みなの」

若干気まずそうに重清へと返したプレッソに代わり、智乃が答えた。


「そうなんだ。プレッソ、おつかれさん」

(なんだよ。オイラが負けたってのに言うことはそれだけかよ)


「ま、次があるっしょ。ソウに負けたんなら、攻めることもできないしね」

重清が呑気にそう返していると、

「それで?これからどうするのじゃ?あの3人を追うのか?」

ロイが重清へと声をかけた。


「いや、おれ達も1度ノリさん達と合流しよう。

あ、あと智乃とロイ。悪いけどおれ、あんまり忍力残ってないから、忍力あげられないけど大丈夫?」

「まったく。だからネルは多用するなって言ってたのに。

まぁ何を言っても仕方ないわね、重清だし」


「重清だからのぅ」

(バカには何言ってもきかねぇって)


「おれの具現獣がおれに厳しい件」


重清は、具現獣達からそう言われ、肩を落として呟くのであった。

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