第310話:猫のおっさん
「あの〜、言われたとおり来たんですけど〜」
『喫茶 中央公園』から忍者協会へとやって来た重清達は、『喫茶 中央公園』に掛けられた絵を抜けた先で、そう言いながら辺りを見回していた。
すると彼らの視界に、1つの人影が入った。
(((絶対あの人だ)))
その人影を見た重清達の意見は、見事に一致した。
何故ならば彼らの目の前には、耳の位置に猫耳があり、腰からはモフモフの尻尾をぶら下げている、40代後半のおっさんが仁王立ちしていたのだから。
(((変な人のレベルを超えていたっ!!)))
重清達は、男の姿に身構え、そして思っていた。
(((もう、帰りたい!)))
と。
「よく、来たのにゃ」
身構える重清達に、男は真面目な顔のまま、低く野太い声でそう言った。
「キミが、私の術と契約しようとした雑賀重清君だにゃ?」
男はそう言って重清をじっと見つめていた。
(えっ、名前知られてるんですけど。すげー怖いんですけど)
対する重清は、男の姿も相まってさらに警戒心を強めた。
「そう緊張するんじゃにゃい。我が術と契約しようとする者の情報が、私の所に届くようにいていたまでだにゃ」
そう言って男は、ソウと恒久に視線を向けた。
「力の使い方が問題なくとも、具現獣が居なければ契約はできないようにしていたからにゃ。そのせいでそちらの2人のことは情報を手に入れることはできなかったにゃ。良かったら自己紹介でもしてくれないかにゃ?」
男がそう言うも、ソウと恒久もまた、重清同様警戒したように押し黙っていた。
「む、君達も緊張しているようだにゃ。ではまずは私から自己紹介だにゃ」
勝手に警戒を緊張と勘違いした男はそう言うと、またしても勝手に自己紹介を始めた。
「私は、
そう言って真備は、可愛く猫のポーズをとった。
そう、それはもう可愛いのである。
同じ次期本家当主である、雑賀美影がやったならば。
しかし現在重清達の目の前にいるのは、雑賀本家の美少女ではなく、ただのおっさんなのである。
重清達は今、『
自分達は、一体何故こんなものを見せられているのか、と。
「む。やはり君達には、少し刺激が強すぎたようだな」
真備は、そう言って姿勢を正した。
そう。この男、非常にポジティブな思考の持ち主なのだ。
目の前の
そんな真備に構えながらも、ソウが口を開いた。
「こ、甲賀ノリと甲賀オウの弟子、甲賀ソウ、です」
しっかりと真備に答えるソウを見た恒久も諦めたように、
「伊賀恒久」
そう、真備へと答えた。
「ソウ君に恒久君だにゃ。よろしくだにゃ」
そう笑顔で言った真備は、重清と恒久に目を向けた。
「君達のその忍名、血の契約者だにゃ?」
真備の言葉に、重清と恒久は頷き返した。
「まさか、4大名家のうち2つの家系の忍者が私の術と契約をしたがるとはにゃ。根来家も、そろそろ5つ目の名家に仲間入りかにゃ?」
真備はそう言って、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「4大名家って?」
重清がいつものごとく、どうでも良い事に食いつき始めた。
「知らないのかにゃ?風魔、甲賀、伊賀、雑賀の4家は、昔から代々続く由緒ある家系にゃ。まぁ、根来家も負けてはいないけどにゃ」
そう言った真備は、首を振って重清達を見渡した。
「それはいいにゃ。それより君達は、私の術である『獣装の術』と契約したい。これに異論はないかにゃ?」
真備がそう言うと、重清達は顔を見合わせてうなずき合い、
「「「はいっ!!」」」
そう答えた。
「良い返事だにゃ。ではこれから君達には、試練を与えるにゃ。『獣装の術』は、具現獣と心を通わせてこそ使える術だにゃ。しかし、自身の具現獣と心を通わせる事など当たり前だにゃ。他者の具現獣とすらも心を通わせてこそ、『獣装の術』を使うに相応しいんだにゃ」
そう言った真備は、手を前へとかざして叫んだ。
「出てくるのにゃ、私の可愛い具現獣達よ!」
その瞬間、真備の前に犬の群れが現れた。
「いや具現獣は犬なのかよっ!!」
恒久が咄嗟につっこんでいると。
(スゲー数だな。重清、オイラ達も手伝った方がいいか?)
重清の頭の中に、プレッソの声が響いた。
(あぁ、うん。流石にこの数相手にするのヤバそうだし、お願いしようか―――)
「おっと、忘れてたにゃ」
重清がプレッソに答えていると、真備がそう言って指を鳴らした。
(ん?あれ?プレッソ?チーノ?ロイ?聞こえてるー?)
突然聞こえなくなったプレッソの声に、重清がオロオロしていると、
「これで重清君の具現獣に邪魔されることはなくなったのにゃ。さて、お前たち、久々にたっぷり游んでもらってくるにゃ!」
真備がそう言うと、犬達が一斉に重清達に向けて走り出した。
「やべ、こっち来た!」
「シゲ、ソウ!逃げるぞ!」
恒久の言葉に、重清とソウは頷いてその場から走り出したのであった。
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