第415話:捨て忍の姉弟

「あらぁ?古賀先生にシゲ君じゃないのぉ〜。

あっ、あっちにはソウ君もいるぅ〜。

この馴れ馴れしい人、皆さんのお知り合いですかぁ〜?」

忍ヶ丘2中養護教諭、花園薫が、ユキ同様に間延びした声を出した。


「いや、2人ともすんごいのんびりした口調・・・じゃなくて!カオルン!こんなとこでなにしてんの!?」

似た口調の2人につっこみつつ、重清は花園に叫んだ。


「何って、この近くでスイーツの食べ放題があるから、行こうと思ってたのよぉ〜。そうしたら、この人にナンパされちゃってぇ〜。私、ナンパなんて初めてよぉ〜」

人質にされているのに気付いていないかのように、花園は笑って重清へと返していると。


「人質なんて、卑怯だぞっ!」

ノリがユキへと怒鳴り声を上げた。


「いやぁ〜、こうでもしないと、みんな止まってくれなさそうだったからねぇ〜」

ユキはそう言うと、重清を見据えながら一歩踏み出した。


そのまま馴れ馴れしく花園に肩を組んだまま、ユキは重清へと近づいていく。


「動くなよ、雑賀重清ぉ〜」

そう言って段々と近づいてくるユキをじっと見つめながらも、重清はその場に留まっていた。


その時。


「シゲ、ダメっ!その2人から逃げてっ!!」

ドウを担いだまま叫ぶ聡太の声が重清の耳へと届き、重清はついそちらの方を振り向いた。


「ソウ、何を―――がっ・・・」

聡太に声をかけようとした重清の腹に、鈍い痛みが走り、重清はそのままその場に膝をついた。


「もぉ〜、シゲ君ったらぁ。私が人質になってるのに、動いたらダメよぉ〜」

痛みに耐えながら重清がユキの方に視線を戻すと、拳を突き出したが、そう言って重清へと笑みを向けていた。


「カ、カオルン?な、なんで・・・」

腹への衝撃に涙目になりながら、重清は花園を見上げて呻くように声を絞り出した。


生徒のそんな様子に一瞥をくれた花園は、普段の優しげな表情とは正反対の冷たい表情で、ユキに目を向けた。


忠移ただゆきぃ、さっさとやっちゃってぇ〜」

「わかってるよ、

花園へとそう返したユキは、蹲る重清へとその手を伸ばし、頭へと触れた。


それと同時にユキから黒い忍力が溢れ、文字を作り上げた。


『記憶移植』


甲賀ユキ、本名花園忠移ただゆきの力である『記憶移植』は、他者の記憶を奪い、自身や他の者にそのまま移植することが出来る能力である。


基本的には戦闘に向かないその力であるが、例えばユキ自身から拷問を受けた者からその記憶を奪い、その記憶を相手に移植することで圧倒的なまでの恐怖を与えることすらも出来るものなのである。


そんな力でユキは今、重清の記憶を自身へと移植し、じっと目を閉じてそれを


そんなユキを見つめていた花園は、聡太へと目を向けた。


「弟が情報を頂いている間に聞きたいんだけどぉ。ソウ君、もしかして私の正体に気が付いていたかしらぁ?

古賀先生にもバレていない自信があったのに、何でバレちゃったのかなぁ?」

そんな花園の疑問に、聡太は静かに答え始めた。


「あの、七不思議を調べに行った夜、ぼくとシゲは保健室に居ました」

「えぇ、気付いてたわよぉ〜。ソウ君が私に会いに来てくれたのかと喜んでいたのに、ソウ君ったらそのまま出ていっちゃうんですものぉ」

花園は普段どおりの口調で、聡太へと笑いかけた。


「ぼく、忍力の無い人でもある程度の気配はわかるんです。なのにあの夜、足音が聞こえるまで花園先生が近づいていた事に全く気付かなかった。

まるで、感知を絶たれたような感覚。ショウさんの卒業式の日に来た、白いローブの人と同じでした。だから・・・」

「なるほどね。しかし、あたしやノリにまで感知されないなんてね」

聡太の言葉に、雅が関心したように花園を見つめた。


「私達はぁ、確かにまともな術は使えないわぁ。だけどぉ、1つの力だけでいえば、あなたにも勝てるのよぉ、雑賀雅ぃ」

雅へと答えた花園から、黒い忍力が立ち上がり、そしてある文字を形作っていった。


『忍識阻害』


忍者の力の根源とも言える忍力、その感知を阻害するこの力で、花園は2中へと潜伏していた。

雑賀重清を見張るために。



甲賀カオ、本名花園薫と、甲賀ユキ、本名花園忠移は、双子の姉弟である。


2人の両親は、共に実力のある契約忍者であり、2人は両親の強い勧めで、社会科研究部を訪れた。


そして2人同時に、捨て忍となったのだ。


強い忍者となることを期待していた両親は、そんな2人に落胆し、その日のうちに親子の縁を簡単に切ってしまった。


有望視されていた自分達の子が捨て忍であることを、2人の両親は恥じたのだ。


記憶を失った2人は途方にくれた。


何日もろくに食事を取ることもなく、帰る家も無くなった2人が、人気の無い高架下で身を寄せているその場に現れたのが、ゴウであった。


そして彼らもまた、ゴウに言われるがままに再び忍者として契約し、既にゴウの弟子となっていたグリやドウと、行動をともにするようになった。


彼らの思想が、グリやドウへと傾倒するのに、さほど時間は掛からなかった。

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