第405話:公弘の謝罪

雅の家を後にした重清は、同日行われた中忍体の結果を聞くべく『喫茶 中央公園』へと向かっている道中、プレッソ達具現獣に平八との出来事を説明していた。


(そう、平八がそんなことを・・・)

重清の話を聞いたチーノは、そう呟いて寂しそうに遠くを見つめていた。


「重清、内緒話は終わったか?」

重清達が心の中での会話を終えると、公弘が重清へと声をかけた。


「え?あぁ、終わったけど・・・っていうか公弘兄ちゃん、なんでついてきてるの?」

公弘が何故かついてきていることを気にしながらもチーノへの説明を優先させていた重清は、兄にやっとのことでその疑問をぶつけた。


「重清、これからノリさん達に会いに行くんじゃないのか?」

「そうだけど。今日の中忍体の結果を聞きにね。まぁ、どうせ2中が勝ってると思うけど。公弘兄ちゃんもノリさんに用があるの?さっき、スマホに誰かから連絡来てたみたいだけど?」


「あぁ、ちょっとノリさんに挨拶をな。さっきの連絡とも関係しているからな」

「ふぅ〜ん。おっと」

聞いておきながら特に興味のなかった重清は、適当に返事をしてつまずいた。


「重清、大丈夫?」

同じく重清達に同行していた美影が、咄嗟に重清の腕を掴んで声をかけた。


「忍力切れそうなの忘れてたよ。ありがとな、美影。それで・・・なんで、美影までついてきてるの?」

「なんでって・・・疲れている未来の旦那様を、フォローするためじゃないの。こうやってね」

そう言いながら美影は、重清へと肩を貸した。


「あ、さいですか。ま、助かるんだけどさ」

重清はため息混じりにそう返しつつ、フラつく足元に負けて美影の肩へと寄りかかった。


そんな重清と美影を優しげな笑みで見守りつつ、公弘は呟いた。


「それにしても重清、本当にお前が当主になるなんてな。俺の勘も、満更じゃなかったってことだな」

「へ?公弘兄ちゃん、おれが当主になると思ってたの?」

公弘の言葉に、重清は驚きの目を返した。


「なんとなく、な。昔からじいちゃんは、お前の事が気に入っていたからな。名指しで重清を当主にすると、思っていたんだよ」

(おぉ。さすが公弘兄ちゃん)

重清は関心したように心の中で呟いた。


「重清、覚えているか?俺と裕二が、重清に修行をつけたときのこと」

公弘がそう言って重清を見つめた。


「裕二兄ちゃんから『具現獣銃化の術』を教えてもらって、公弘兄ちゃんから『弾丸の術』の作り方を教えてもらったときのこと?」

「あぁ、そうだ。あの時もな、俺と裕二は、重清を強くするために色々と教えたんだぞ?」


「それって、ばあちゃんに言われたからじゃないの?」

「まぁ、それもあるっちゃあるけどな。さっき言っただろ?俺も裕二も、やりたいことがあるって。そのためには、お前にどうしても強くなってもらわなきゃいけなかったんだ。面倒な当主を、押し付けるためにな。こんな卑怯な兄で、悪いと思っているよ」


「・・・・・・・・」

重清と公弘の会話に、美影やプレッソ、チーノとロイほただじっと2人を見つめていた。


「ま、仕方ないんじゃないの」

そんななか、この場で唯一公弘に文句を言える立場の重清は、さほど気にした様子もなく公弘へとそう返して笑っていた。


「公弘兄ちゃんも裕二兄ちゃんも、やりたいことがあるんでしょ?おれより先に生まれたんだから、それは当たり前のことだしね。兄ちゃん達の言うとおり、おれにはまだ、本当にやりたいことがあるわけでもないし」

「いいのか?もっと怒ってもいいんだぞ?」

公弘は、戸惑いながら重清を見返した。


「う〜ん。なんか怒るっていうのも違う気がするんだよね。それに、兄ちゃん達から教えてもらった術、かなり役に立ってるし。逆に感謝してるくらいだよ」

「・・・・ありがとうな、重清」


「ま、気にしないでよ。でも、おれまだ中学生だからさ。色々と分からないことも多いし。当主の仕事、少しは手伝ってくれると助かるかな」

「あぁ。その辺は、ちゃんと俺と裕二でフォローするつもりだよ」


「流石は重清。お兄様に対しても、優しいのね」

そんな重清に頬を染めつつ、美影は重清の腕にギュッと抱きついていた。


プレ(優しいっていうか、特に何も考えてないだけだろ)

チー(1人で平八と会えたんだから、当主くらいやるのは当然よ)

ロイ(雅ちゃんでも務まったんじゃ。重清でもどうにかなるじゃろうしのぅ)


(いや3人とも、言いたい放題すぎじゃね?)


具現獣達につっこみながらジト目を向ける重清の様子に公弘は、


(本当に、じいちゃんによく似てるよな、重清は)

公弘はそう思って、1人笑みを浮かべるのであった。

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