第418話:黒幕

「親父っ!」

「親父殿っ!」

ドウ達4人の弟子が、口から血を流すゴウの元へと駆け寄った。


「ぐっ・・・」

しかしゴウは、そのまま膝をつき、その場に倒れこんだ。


倒れ込みながらも、ゴウはその背後へと目を向けた。


「お、お前は・・・」

ゴウの視線の先には、その手を血に染めた、1人の男が立っていた。


「馬鹿者共が。やはり貴様らには、任せるべきではなかったな」

血を拭いながら男は冷たくそう言うと、足元に転がるゴウを蹴り飛ばした。


「ぐっ!」

「ゴウ様っ!」

そのまま軽々と吹き飛んだゴウを、駆け寄っていたユキが受け止め、彼の弟子達は血まみれの師を囲んだ。


「貴様、よくも親父殿をっ!」

「あれぇ?」

叫ぶドウの声に、他の3人も同時に男に目を向けると、花園だけが驚きのこもった目で、男を見つめて声を漏らしていた。


このゴウの弟子達4人の中で、自身も2中の教師として働いている花園薫だけは、その男に見覚えがあったのだ。


他校の教師であったその男を。


「トウさん・・・」

ノリが、悲しげな瞳で呟いた。


3中忍者部元顧問、根来ねごろトウを見つめながら。


「ノリよ。久しぶりだな。雅殿も、息災のようで何より」

血まみれの手を拭ったトウが、2人に声をかけた。


「トウ、あんたがこいつらをけしかけたのかい?」

そんなトウに、それまで号泣していた雅は涙を拭いながら問いかけた。


「けしかけたなどと。儂はただ、そこのゴウに『始祖の契約書』の存在を教えてやったにすぎぬわ」

トウはそう言うと、ゴウへと視線を落とした。


必死にゴウへと声をかけている弟子達の姿を見たノリは、


「雅様、彼の治療をお願いできますか?」

雅へと頼み込んだ。


「ちっ。まさか孫を襲った相手を治療薬するなんてね」

雅はそう言いながらも、ゴウの元へと瞬時に移動した。


「ほら、あんた達、邪魔だよ」

ドウ達4人を押しのけた雅は、その場に膝をついてゴウへと『治癒の術』をかけ始めた。


雅にゴウの治療をまかせることに戸惑いを覚えながらも、4人はトウへと視線を向けた。


「よくもゴウ様をっ!」

グリが腕にたくましい獣の腕を具現化しながら構えるも、


「グリ、少し待ってください」

ドウがそれを静止して前へと進み出た。


「先程の話、親父殿に『始祖の契約書』について話したのは、あなたなのですか?」

「あぁ、その通りだ」


「もしかして僕ら、あんたに騙されてたのかなぁ?」

ユキもまた、構えながらトウを睨みつけた。


「騙したとは心外だ。私は、ただ『始祖の契約書』の存在と、雑賀平八がそこに辿り着いた可能性について話しただけだ。

まさか雑賀平八が、『始祖の契約書』へ辿り着く方法を次の当主に引き継がないなどとは、私も計算外だったがな。

しかしそれ以上の計算外は、お前たちの諦めの早さであったな。

あれ程忍者を憎んでおきながら、こうも簡単に諦めるとは。

やはりお前達も、友と過ごし、その心を軟弱にしたようだな」


トウは立ちはだかる4人の捨て忍を、無感情に見つめていた。


「うるさいっ!ドウ、ワタシはもう我慢できないわっ!」

グリはそう叫ぶと、獣の腕を振りかぶりながらトウへと向かって走り出した。


「ふん。身の程知らずめが」

トウは小さく呟きながらも、ただその場に突っ立って、グリを迎え撃った。


グリの獣の拳が、トウへと届きた瞬間、その腕は黒い霧となって消滅し、そこにはただ、グリの白い腕だけが残っていた。


そのままグリの腕を掴んだトウは、もう一方の拳をふるい、その身にそれを受けたグリはそのまま吹き飛ばされた。


次の瞬間、トウの背後に『空間移動』で現れたドウが、共に移動したユキへと叫んだ。


「ユキ、この男の記憶を全て奪いなさいっ!」

「おっけぇ〜」

クロイ忍力を吹き出しながらユキは、トウの頭を掴んだ。


「なっ!?」

「無駄だ」

しかし黒い忍力はトウの記憶を奪うことなく霧散し、トウはユキの腕を掴んだ。


「ドウ、逃げろっ!」

「そ、それが、力が、使えないのですっ!」

「馬鹿共が」


焦る2人に小さく呟きながら、トウは2人に強烈な蹴りを放ち、2人もまた、そのまま吹き飛ばされた。


「あらぁ、油断はダメよぉ」

その直後、『忍識阻害』で姿を隠していた花園が現れ、全力の体の力を込めた蹴りをトウへと繰り出した。


しかしトウはそれを見ることなく避け、


「私の『忍識阻害』が、捉えられたっ!?」

「年期が違うわっ!」

焦る花園にそう叫ぶと、花園の脚を掴んで近くの大木へと叩きつけた。


「薫っ!トウさん!何故こんなことを―――っ!?」

それを見たノリは叫んでトウを睨みつけ、息を呑んだ。


根来トウからは、ゴウや他の4人の弟子達とは比べられないほど濃く、黒い忍力が溢れ出していた。



そんな光景を、ただじっと見つめていた中学生達重清、聡太、恒久高校生近藤は、


((((めっちゃ蚊帳の外))))


と、心の中で呟いていた。

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