第31話:意見箱と依頼

先輩たちが去ったあと、プレッソを召喚して、重清は古賀に向き直す。


「さて、先輩たちが行ってしまったし、きみたちには『依頼』について教えてあげなくちゃね。これ、見たことあるかな?」

そういうと古賀の目の前に、「意見箱」と書かれた箱が出現する。


「「「「「意見箱??」」」」」


「その様子だと、誰も見たことはなさそうだね。ま、それもそうか。これはね、この学校の中で本当に困っている人の前にだけ現れるようになっているんだ。そして、そんな人たちは、この箱に依頼を出すようになっているんだ。そしてこの忍者部が、そんな依頼を裏で解決するってわけさ。」


「これも、忍者教育のカリキュラムってことですか??」

「アカ、察しがいいね。そのとおりなんだ。忍者は外からいろんな依頼を受けることになる。これは、その練習みたいなものなんだよ。ここから入った依頼を、我々教員が確認し、それぞれの生徒に割り振っていくんだ。きみたちの成長に合わせて、ね。依頼内容によっては、私も着いて行ったりもするんだけど、今日の依頼は、ショウのリーダーシップを試すいい機会だったからね。」

「今日の依頼は、何だったんですか??」

ツネの質問に、古賀は厳しい顔を向ける。


「それは、言えない。先輩たちにも、聞かないようにね。忍者同士でも、依頼内容を聞くのはタブーだよ。信用問題に関わってくるからね。」

「りょーかーい。」

常久が小声で言って小さく手を上げる。


「普通だったら、居残り組は普通に修行してもらうんだけど、今はまだ、きみたち同士での模擬戦も危ないし、今日のところは修行はなし!代わりにきみたちには、私から依頼を出させてもらう。

ところで重清、きみクラスではなんで呼ばれてるのかな?」


「えっと、忍者、ですね。」

それを聞いた恒久とアカが、呆れたように重清を見る。


「うん、恒久とアカの反応が正しいよ。忍者が、『忍者』って呼ばれるなんて、シャレになんないでしょ?というわけできみたちへの依頼は、『クラスでの重清の呼び名を変えさせろ』だ!」


「「「「はぁーーー!?」」」」

重清以外の3人と1匹が抗議の意味を込めて声を揃える。

「だから早くどうにかした方が良いって言ったのに!」

「うわぁ〜、完全にシゲの尻拭いじゃねーかよー。」

「あはははは!シゲほんとバカじゃん!忍者って、忍者って!」

「あーあ、やっぱ重清バカだなーー」


「はいはい、それぞれに思うところはあるだろうけど、これは決定事項だから。このあとは一応、この部屋で作戦を練るのは構わないから、自由に使って。でもその前に、重清には別の用事がある。」

「別の用事??」


「あんたはその作戦とやらを練る前に、あたしと楽しい修行をしてもらうよ。」


全員がその声のした方に目を向けると、そこにいたのは・・・


「「ば、ばあちゃん!?」」


重清の祖母、雑賀雅であった。


「あんたぁ、今日無茶してくれたんだってねぇ?ノリから聞いたよ?」

雅の言葉を聞いて重清が古賀を恨みがましく見ると、古賀は申し訳なさそうな、それでいて面白そうな、そんな表情をしていた。


「あたしからノリにお願いしといたのさ。あんたが変な事やったら教えてくれ、ってね。しかしまぁ、いきなりここまで変なことやってくれるとは思わなかったけどねぇ。どうせ、契約に縛られないからとか考えたんだろ?」


「うぐっ。。。」

「どうやら図星のようだね。確かに、あんたと恒久くんは契約に縛られていないから、忍者だとバレても、自動的に忍者としての記憶を無くすわけじゃない。その分、それぞれの家ではそれ相応の罰を準備してるのさ。」


「相応の、罰?」

恒久が雅の圧に押されながらも、聞き返す。

「伊賀家がどんな罰を行っているかは知らないけどね。我が家では、あたしの楽しい修行が待っているのさ。1回目は1日間、2回目は2日間、とだんだん増えていく方式で、ね。」

そう言って、雅が恒久にウインクする。


さすがの恒久も雅に強くつっこめず、口をつぐんでいると、


「「い、いやだぁ~~~~~~!」」

重清とプレッソの絶望の声が響き渡る。

「おや、そんなに嬉しいのかい?じゃぁ早速行こうかい。あ、聡太くんたちはそのままここにいてちょうだいね。修行は1日だけど、一瞬で終わるから!」


「ちょ、ばあちゃん!?やったのは重清だろ?オイラは関係ないよな!?」

「はぁ!?プレッソ、お前裏切るのか!?」

「もちろんプレッソも一緒だよ。あんたがしっかり止めてれば、こんなことにならなかったんだからね。」


そう言いながら雅は、重清とプレッソを引きづって行く。


「「いやだ~~~~~~!!」」


そして、雅と重清、そしてプレッソは、そのまま忍者部の部室にある掛け軸の向こうへと行ってしまう。


そしてその直後には、重清とプレッソだけが戻ってくるのであった。


「「ごめんなさい、もうしません・・・」」


そんなことをつぶやきながら。


それを見た恒久は、自分も契約時の遵守事項はしっかりと守ろうと、心に誓うのであった。


その後、なんとか自分を取り戻した重清とプレッソを加え、依頼に対する作戦をねることとなった。

「じゃ、あとはよろしくね~」

重清とプレッソが気付いたときには古賀は、そう言ってさっさと部室を後にしていた。


「あの野郎、逃げやがったな。」

プレッソがひっそりと毒づいていた。


「えっと、シゲ、大丈夫??」

「大丈夫じゃないやいっ!もう、ほんと地獄だったんだからな!?」

「いや、それあんたの自業自得でしょ?そんなことより、さっさと依頼の作戦考えるわよ!」


「「今、そんな事って言った!!」」


「シゲ、プレッソ、もう忘れろ。少なくとも、おれたちよりも1週間長く、修行できたんだ。得したと思っとけよ。」

「あの修行受けたら、そんなポジティブになれないからね!?」


「はーい。もう進まないから、話し合い始めまーす。」

聡太が冷たく、バッサリと会話をぶった切る。


「ちょ、ソウ、ひどくない!?」

「しつこい!アカの言うとおり、自業自得なんだから諦めなさい!」

聡太から叱られ、重清はただうつむく。

「おい重清、聡太ってあんなキャラなのか?」

「たまーに、怖いときあるんだぞ?そうなったときは、逆らっちゃダメだ!」

そんなプレッソと重清を黙殺し、聡太が話を進めていく。


「さてと、それで、どうする??」

そして、4人と1匹は、重清の尻拭いのために、依頼への対応策を練っていく。

話し合いの結果、夕方からではクラスメイトがバラバラになっているだろうという結論になり、翌日、作戦を決行することになったのであった。

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