第07-2話【ポーション(2)】


 今は宿のバルコニーでお茶のメティを飲んでいる。油の多いバルケ・クメイを食べたあとは至福の時だ。

「日差しの当たらない、夏の木陰に囲まれたバルコニーで昼食とか、日本で学生していた頃なら考えられない贅沢ですよ」


 クローリスはカウチに身をもたせかけている。


 でも、受注した依頼の量を考えたら休んでばかりもいられない。


「さ、クローリス。そろそろ仕事を始めようか」


「うー、仕方ありませんね」


 だるそうに起き上がるクローリス。

 しっかりしてくれリーダー。


「じゃあこれから依頼にあったSP回復ポーションを作ります。早速ですみませんが、ザート。書庫をつかってトキの葉とエフェスの根を乾燥させてください。


 書庫のタブレットを見て、それぞれの表示を操作して、素材から水分を分離した。


===

【素材】

・トキの葉(乾燥)  ……500ルム

・エフェスの根(乾燥)……800ルム

・蒸留水       ……1ディルム

===


 とりだすと確かに乾燥している。


「うわチートぉ、何度見ても便利ですね」


 もう聞き流すことにした。

 チートはクローリスの鳴き声だと思う事にしよう


「さて、じゃあはじめますよー」


 クローリスがバルコニーの一角に出した錬金器具の前に立つ。

 コンロでフラスコの水を過熱しつつ、素材を刻んでいく。


 いつの間にかリオンが起き上がってそわそわとこちらを見ているけど、今日は出番はないからね?


 クローリスのポーション作成スキルは練度が高くないらしい。

 だから失敗リスクが少ないSP回復ポーションを作る。


「あれ? 魔力がうまく混ざらない」


 作成の仕上げに、小さな凝血石の欠片を入れて、溶かすように自分の魔力をそそぐんだけど、うまくいっていないみたいだ。


「そういう時はこの棒をフラスコにさして」


 器具一式から一本の棒を取り上げてクローリスに渡す。

 このミスリル合金の棒は魔力伝導率が高く、魔力を注ぎ込む時の補助として使われる。


「あ、楽に出来た……ザートって実はポーションつくれるんですか?」


「スキルはないよ。知識だけ」


「むむ、ザート、意外にハイスペックですね。それならそうと言って下さいよ。一緒に作って下さい。これで作成スピードが二倍です!」


「嫌です。僕はあくまで補助」


 興奮するクローリスには悪いけど、ここはきっぱり釘を刺しておく。

 作れるけど、僕のやり方じゃ品質を一定にすることはできない。

 品質が一定じゃないポーションは買取のときに嫌われるのだ。

 

「ケチじゃないですか? チートなのに」


 緑の瞳で上目遣いににらまれた。少しクセのある暗緑色の髪が目の前で揺れる。


「対等でいたいって言ったのは誰だっけ?」


 ぐぬぬ、と喉を鳴らしてクローリスは作業にもどった。


「言っとくけど、知識はチートって奴じゃないからな」


「わかってますよ。自分で勉強したんでしょう? 努力まで否定したら私が嫌な奴みたいじゃないですか」


 わかってるならいいんだ。僕はそのままクローリスの後ろで見守ろうと後ろに下がった。


「……とりあえず、もらった薬草の苗でも植えるか」


 プラントハンターの看板を掲げている以上、やっておきたいところだ。

 苗、植木鉢、おけに入った水、桶に入った土をとりだして作業を始める。

 しばらくするとリオンが気づいて寄ってきた。


「苗作りしてたの? 言ってくれれば一緒にやるのに」


「うん、お願いするよ。できあがったらバルコニーの外側に並べていくから」


 程なくバルコニーはトキやエフェスなど、薬草の鉢植えで賑やかになった。

 グランベイには当分の間いるつもりだし、別の場所に拠点をうつしても書庫に入れれば簡単に持ち運べる。

 成長すれば各種ポーションの原料が取り放題だ。


 グランベイを発つまでに何度つみとる事ができるか楽しみだな。




    ――◆ 後書き ◆――


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