第52話【待ち伏せ】


 瀕死の魔獣にとどめをさす作業を続けている。

 飽きるんじゃないかと思っていたけど、実はそうでもない。

 進んでいく度、新しい魔獣がぽつりぽつりとみつかるからだ。


「これも新顔だな。頭に角がある蛇か」


 あごのしたを一突きすると、蛇の白かった身体は黒い霧につつまれ、泥となって沈んでいく。

 残された目玉の凝血石と、ほのかに青白い真珠色の皮をリオンが拾いあげる。


「そろそろ二つ目の袋も一杯になるね。一回戻ろうか?」


 背負いっぱなしになっている僕のバックパックにドロップ品を入れながらリオンがつぶやく。


 リオンにはいえないけど、さっきから気になっている事もある。

 手元に光る板を出して魔砂の数字を確認した。やっぱり十歩あたりで回収できる魔砂の量が増えている。

 進むほど川底にある魔素の量が増えているのだから、今僕らは魔素だまりの中心に向かっていることになる。

 もしかしたらダンジョンがあるかもしれない。


「よし、じゃあもどろうか」


 リオンも嫌な予感がしているのか、周りを見回している。

 この辺りは川というより、竜の背骨に挟まれた堀のような地形だ。露出した川底には水が残った淵が点在している。


 振り返った先に魔獣の影はない。自分達で倒してきたんだから当然だ。

 それなのに、先ほどは感じられなかった敵の気配がいくつも感じられる。


「少し深入りしすぎたな。リオン、帰り道に魔獣か魔物がいるよな」


「そうだね。来るときに潜んで襲ってこなかったんだから知能の高い魔物かな」


 影が差して薄暗い、泥混じりの淵が不吉に揺れたかと思うと、細かい髪の毛のような藻をかぶった頭が出てきた。

 続いて出てきたのは身長二ジィほどの灰色の裸体が三体。事前に聞いていた沼の巨人の特徴と一致する。


 リオンと視線を交わし、巨人の間を走ると簡単にすり抜けることができた。動きが遅いというのも事前情報のとおりだ。

 リオンの脚は事前に聞いていたよりも速い。これならビビの時みたいに抱えて走らなくて済みそうだ。


「——ッ! ザート!」


 のんきなことを考えていると、先を走っていたリオンが唐突にとまった。

 追いつき、リオンの視線の先を見るとそこには川底を埋め尽くす沼の巨人の一団がいた。


「完全にはめられたな……」


 沼の巨人の知能が高いという話は聞いていかない。これは新発見なのか、あるいは……


「戻ろうザート!」


 きびすを返して来た道を戻るリオン。


「……リオン、待てっ!」


 制止の声はリオンに届かない。後を追うしか選択肢がなくなってしまった。

 リオンが向かっている先には、危険なダンジョンが待ち受けているかもしれない。

 強行突破の方がまだ安全だった。


 でも強行突破にはリオンに伏せていたジョアンの書庫か精霊の炎刃が必要だ。

 明かすべきか否か、その逡巡が仇となってしまった。








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