第53話【ゆがんだ太陽】
急いでリオンに追いつき併走する。
さっき撤退した所にはやはり三体の巨人が待ち受けていた。
今度は逃がさないとばかりに等間隔に展開している。
『ファイア・アロー・デクリア!』
中央の巨人にファイアアローを十本たたき込んだ。
もちろん書庫によるもので、コトダマだってでっちあげだ。後で整合性とれるか心配だな。
「リオン、すり抜け様に武器を試そう」
何か言いかけたリオンだけど、うなずいてツーハンドフレイルを構えた。
武器が沼の巨人に通用するか。それによって今後の方針が変わる。
右手の巨人は石の棍棒をもっている。あれを打ち下ろされたらきついな。
『
巨人に肉薄する手前で身体強化を瞬間的に弱める。目の前を巨人の棍棒が通り抜けていった。
『
加速と共にショートソードを横薙ぎする。十分な手応えを感じつつ離脱した。
「こっちは行ける! そっちはどうだった」
「ダメだ、まるでスライムだったよ」
「なるほど、打撃は効かないのか」
この時点でリオンは魔法に頼るしか選択肢がなくなった。
魔法は凝血石の存在が大前提だ。
自分の魔力を凝血石に通すことで魔力を取り出して魔法を使う。
今僕の背中には一財産する凝血石がある。魔力の供給源としては十分だ。
しかしだからといってリオンが無限に魔法をつかえるわけじゃない。
なぜなら魔法を使う度に、体内の魔力も消費されるからだ。
時間ごとに回復するとはいえ、体内魔力が切れれば凝血石があっても魔法は使えない。
そして身体強化と魔力操作は体内魔力を多く使う。
ここに来るまで魔獣にとどめをさすために土魔法を使い、今も身体強化で体内魔力を使い続けているリオンはあまり魔法を使えないだろう。
「リオン、この辺りに巨人が隠れる場所はない。一度地図を確認しよう」
走る速さを緩めながらゆっくりと停まり、深呼吸をして身体強化を緩めていく。
「ハァ……ゴホッ、……ハァ」
リオンも停まってはいるけど、まだ話すのは無理みたいだ。先に地図を広げてみる。
第三要塞の方から堤防決壊場所に入って、そこから網目状の道を基本的にはまっすぐに進んでいたはず……でもこれは、まずいかな。
「リオン、ちょっと地図をみてくれるか?」
「本当、ビビが言ってた通りだよ。どういう身体強化してるのさ……」
ため息をつきつつ岩板の上に座り込んでいたリオンが起き上がる。
「僕らはこの現場から基本的には直線に進んできたんだよ。だから本来ならとっくに川の本流にぶつかっているはずなんだ」
「確かに。今道の先に見えるのは古城だから、予想より左に向かって走っていたって事かな?地図には堤防の内側が無いからたぶん、だけど」
地図上では、本来突き当たっているはずの川岸の左側に古城が描かれている。
僕らが進もうとしていた道の先には古城が見えている。
普通に考えれば左にそれた結果、古城の方角に向かうようになったと考えるべきだ。
でも僕にはそうじゃない予感がある。
上を見上げれば、朝に見た時と同じ青さの空があった。
「リオン、ちょっと確かめたい事があるんだ」
そういってすこし先にある脇道まで歩いて行く。
「ザート? この先に何かあるのか?」
ゆっくりと本道と脇道の境界をまたぐと、走っているときにはわからなかった違和感に気づいた。
一足先に脇道に入っていたリオンは目の前の光景に目を見開いている。
予感が当たったことで、安堵と落胆のため息がもれる。
「なんで、こっちからも古城がみえるのさ……」
リオンが見上げているのはさっきとまったくおなじ古城。
進む度に魔砂の密度が濃くなるので嫌な予感はしていた。
ここはもう普通の魔素だまりじゃない。ゆがんだ太陽が見える大地。解放されたダンジョン。つまりは――
「魔境、だな」
――◆ 後書き ◆――
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