第21話【グランベイ海岸 発掘調査結果(1)】


 ジョアンの書庫のタブレットを浮かべて、そのすぐ上に手の平をかざして風を送り続けている。

 日課の魔法収納だ。


「……」


 あんな刺激の強い光景を見せられたので、とうぶん悶々として自己嫌悪と人間不信になりそうだ。

 今だと何を言っても恥ずかしくなりそうなので黙って日課を続けている。


「ザート、ごめんね」


 今、リオンはユカタという服を胸元まできれいに閉じて着ている。

 コルセットのような太い布のせいで身体のシルエットが出ているけど、これが本来の着方らしい。

 本当に心臓に悪い。


クローリスも着方を直している。


「ごめんなさい。ちょっとからかいすぎました。これザートのです」


 日課の魔法収納をやめてクローリスに向き直った。

 無言のやめどきがわからなかったけど、丁度よかった。

 クローリスから水着だというものを受け取る。


「ありがとう……それで、三人分の水着を作ったっていうことは海で泳ぎたいんだよな?」


「そうです。海を東に進んだ先にラバ島っていう島があって、きれいらしいんですよ! ……冒険者の仕事を休むことになるのでプレゼンするつもりで水着をつくりました!」


 しょうこりもなくまた衿を開こうとするのをやめさせる。

 なるほど、受付嬢の娘達がバカンスにいくと言っていた島か。

 たしか島の南半分にラグーンが広がっているから一日中明るいとか。

 砂州が長く伸びていて貝殻拾いが楽しいとか。


 漂着物も多いだろうし、行かない手はないな。

 しかしさっきの色仕掛けに乗って、行くのに賛成した風になるのもしゃくだな。


「わかった。今からふところに余裕があるか一緒に確認しようか」


 ちょうど地下すくいの説明もする必要があるし、結果的に手間が省けるだろう。


「やった、そろそろだと思ってたよ」


 リオンがソファの前のローテーブルの上に布をしいて準備を始めた。

 リオンもこの楽しさにすっかりはまったようだ。


「え? パーティ資金なら数字だけ教えてもらえれば済むんじゃないですか?」


 L字ソファの曲がった所にすわり、クローリスを左に座らせる、リオンが反対側に座る。これで三人でタブレットを囲めるだろう。


「まぁ、ザートの仕事のついでというか、プラントハンターの隠れたの収入源だよ」


 確かに、地中のものを収納する本来の目的は、魔法を使うのに必要な魔砂の回収だからな。間違ってはいない。

 ジョアンの書庫のタブレットを目の前に出し、三人で見れるようにする。



【武器】

【魔法】

【貨幣】

【凝血石】

【装備品】

【料理】

【食材】

【薬草】

【道具】

【消耗品】

【魔道具】

【素材】

【特殊魔道具】

【私物(リオン)】

【私物(ザート)】

【私物(クローリス)】

【思い出の植物】

【売却予定品】

【新規収納品】


「今書庫はこういう風にしているな」


「うん、前にいじらせてもらった時と同じですね」


「一例を見てもらった方が早いな」


 ここで、【新規収納品】のフォルダを選ぶ。

 ”フォルダ”とかそういう名前はクローリスに教えてもらった。


【新規収納品】

【道具】

古代の壺:アルバ魔法文明の一般的な壺


「古い壺? もしかして骨董市の掘り出し物が収入源? ほう、なるほど。鑑定チートの定番ですね」


 何やらクローリスがしきりにうなずいている。

 骨董市か。書庫の鑑定は普通の鑑定とは違って一度収納する必要があるから、人前じゃ無理かな。

 まあそれは今はおいておこう。


「これは買った物じゃなくて、グランベイの海岸の砂の下に埋もれていたのを収納で回収してきたものなんだ。そしてこれも埋もれていた」


壺を再び収納してタブレット画面を見せる。


【凝血石】

凝血石(魔砂)×3000

凝血石(低位)×20

凝血石(中位)×15

凝血石(高位)× 8



「凝血石がこんなに……高位凝血石を持つ魔獣なんてこの辺りにはいないはずなのに」


「いないものは倒せない。これらは倒さずに砂浜に埋もれていたんだ」


 クローリスが食い入るように画面を見てくる。

 暗紫色にした髪のせいで白さが際立つうなじが目に毒だ。


「ザートは普段から地面の下に書庫の入り口を開けて歩いているからね。無作為に地中のものを発掘してるんだよ」


「普段から……なるほど、トロール漁法ですね」


 異世界ではこういうのをトロール漁というのか。

 今度から地下ほりはそう呼ぶことにしよう。

 向こうの世界には漁をするトロールがいるんだろうか?


「地中から凝血石をとっていたからザートは魔法を気軽に使ってたんですね。魔素が有限な世界ではこれもチートですね」


 他の魔術士は常にコストパフォーマンスを気にして魔法を使っている。

 その点僕は地中から魔砂という形で直接魔素を回収しているから、魔法を気兼ねなくつかっている。

 チートといわれれば確かにそうかもしれない。


「ねぇ、もう待ちきれないから早く他の品も見ていこうよ」


 唇をとがらせたリオンに促されてしまった。

 確かに、クローリスへの説明に時間を取られてしまった。


「まあ、そんなわけで、売れそうな物が今書庫に入っているはずなんだ。早速見ていこう」




    ――◆ 後書き ◆――


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