第22話【グランベイ海岸 発掘調査結果(2)】


「グランベイ海岸発掘調査、結果発表ー!」


 パチパチパチー


「さて、あらためて見ていこうか」


 さくっと宣言を終わらせて発掘品の内容を見ていくことにする。


「ラバ島でのバカンスもかかってますからね!」


 ぐっと小さい手で拳をつくるクローリスの鼻息はあらい。

 さて、見ていこうか。ソートっと……


【武器】

さびた広刃刀

さびたエペ

スピアの穂先

……


「みんなさびてましたね……」


 クローリスの沈んだ声が痛い。

 出足をくじかれた。最初に出すカテゴリを間違えたか。

 一応数本ずつリオンにも目利きをしてもらったけど、やはり錆が深くてつかいものにならなかった。


「ま、まあ僕らは武器を新しくしたばかりだし、こいつらは鉄塊にでもして何かに使おう。次」


 しかし武器でケチがついたのか、その後の品も語るに値しない平凡な品か、ガラクタだった。


「うーん、こんなものだったかなぁ……うん?」



……

【道具】

船箪笥(破損)

浮きトランク(破損)

抱え柩(破損)

……


 道具の項目を流し見ていた時、違和感を覚えて指を戻した。

 ここに表示されたのは、いわゆる宝箱の破損した残骸……ということは!


……

【貨幣】

金貨 ×二十八枚

銀貨 ×四十五枚

小銀貨×二百三十五枚

……


「お……おおおおー!」

 

 クローリスが先ほどまでのがっかり感を吹き飛ばしてテーブルの布に出した時代も国もまぜこぜな貨幣の山を見てテンションが上がっている。


「詳細情報によれば、つぶせば王国貨幣に換算して九十四万ディナになるらしい……」


 どんな理屈なのか、鑑定による詳細情報がより親切になっている。

 うーん、経費なしでこの金額が入ってくるとちょっと怖いな。


「ザートのビーチコービングって正直エグいですよね……」


 数字をきいて実感が湧いてきたのか、クローリスが冷静になってきた。


「まあ、な。でも金級なんてこの金額の何倍も月に稼ぎ出すからな。狩人をめざすなら驚いてもいられないぞ」


「今の銅級冒険者の身には過ぎた金、ですね」


 なんだろう、クローリスが冷静になった、というより落ち込んできたな。

 あからさまに肩を落としてうなだれてしまった。


「どうしたのクローリス?」


 心配するリオンの声にクローリスが力なく微笑む。


「ええ、帝国でクランにいた頃を思い出してました。元の世界で一般市民だった人達が成金になった時、色々嫌なもの見てしまいまして……さっきの凝血石や金貨はザートが稼いだお金なのに、バカンスにいけるってはしゃいでた自分も同類なんじゃないかって恥ずかしくなってしまいまして……」


 ああ、なるほどな。

 ブラディアの冒険者は等級と活動できる領地がそろっているから、あまり一攫千金の成金は生まれづらいけど、グランベイで大きな山をあてた小商いの商人が嫌な奴になったという話はあったな。

 その、同郷人の嫌な奴らの事を思い出したのか。


「そうか……」


 しかたない。誤解というか、不安は取り除いておこう。

 そんな顔をされるとせっかくの調査結果が楽しめないし。


「クローリスはパーティにしっかり貢献してるんだし、同類じゃないと思うぞ。それにラバ島にはやっておく仕事があるからな」


 最後まで結論は引き延ばしておきたかったけど、仕方ない。

 

「え? 依頼ですか?」


 自己嫌悪と予想外の宣言に戸惑っているのか、クローリスはどうもピンときていないみたいだ。


「ザートはラバ島の海岸も掘るつもりなんだよ。それで収支が黒字なら行っても問題なし……ってことでしょ?」


 リオンが確認してくる。


「そう、むしろ僕だけ行って目立つのは困るし。私的な冒険者活動だからね。周りにはバカンスってことにして一緒に来て欲しい」


 アシストしてくれたリオンに乗っかって口裏も一緒にあわせる。

 書庫を周りには秘密にしている以上、僕達がラバ島にいく理由はバカンスにするしかないのだ。


「じゃあ最初から行くつもりだったんじゃないですか! なにが”財布によゆうがあるかみてみよう”ですか!」


 クローリスはユカタの袖をつまみ、膝を詰めて怒ってくる。

 昔の嫌なことを思い出させてしまったし、結果的に悪いことをしてしまった。

 

「もったいぶりたかったんです。ごめんなさい」


 素直に白状して許してもらった。

 サプライズって難しいな。






    ――◆ ◇ ◆――


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