第23話【水着でむかえる海の朝】


 ラバ島に向かう中型船は夕方にグランベイを出て、明け方には島についていた。


「あれがラバ島か」


 日の出前、舳先近くで朝日を待っていると、朝日と共に綺麗な弧を描き水面とほぼ変わらない高さの真っ白な砂でできた砂州と、まばらに生えるヤシに囲まれた白い石段があらわれてきた。


「うわぁ、うわぁー。きれいですねザート!」


 となりに水着に着替えたクローリスが来た。

 さすがに彼女らの水着姿にも慣れた。


 今乗っている船は滞在する間ラグーン裏で停泊して宿屋代わりになる。

 パーティは大抵一つか二つの船室に泊まるので、さっきは僕が先に着替えさせてもらった。


 クローリスがきれいきれいと繰り返しながら船縁に手を突き跳ね回っている。

 それに同意するように、明赤色の布地につつまれたソレらが上下にうなずいているけど、彼らにうなずき返す訳にはいかない。


「リオンはまだこない?」


「えぇー、ザート、今のうちに私の水着姿をほめてくださいよ。チラチラ見てないで」


 両手で身体をかき抱きながらクローリスがニヤニヤする。

 褒めるのを自分からねだるのはどうなのか?


「さ、遠慮無く?」


 僕の周りをくるっとまわり、満面の笑みでこちらに両手の平を差し出してくる。


「そうだな……今日のクローリスはいつも以上に、見ていて楽しくなれると思う。黄昏色の髪と明赤色の水着姿で水際を跳ね回れば、太陽の精霊のようにみんなの注目を浴びるんじゃないか?」


 あえて声に出すことで恥ずかしさが和らいできた。

 内容は少し大げさだったか? 


「き……き、きぃとった? うちが褒めて欲しかったんは水着姿でうち自身ではないん……」


 同じじゃないの?

 褒められたはずのクローリスが朝焼けに照らされて何か言いたげなふうに唇を動かしている。

 なんらかの自己解決をしたのか、顔をかかえたまま船縁に肘をついて黙ってしまった。

 褒めろといったから褒めたのに、理不尽だ。


 そのまましばらく空が明るくなっていくのを眺めていた。

 島が近づくにつれて、甲板に人が増え、歓声やざわめきが大きくなっていく。

 けれど、唐突に、一瞬だけ上り調子だったトーンがしずまった。


 振りかえると、舳先より一段下がった甲板の上にリオンの灰色のショートカットが見えた。

 向こうがこっちを見たタイミングで大きく手をふると、リオンが嬉しそうにこちらに向かってくる。

 来るんだけど……


「……この世界にも海を割る預言者っていたんですか?」


「海を割るというと……ヒスイ色の翼をもつ女神に導かれた獣人エノキの事かな? たしかに人垣が割れていくな」


 リオンが歩く度に彼女の左右一ジィにいる老若男女が後ずさっていく。


「まぁ、あの女神が嫉妬する身体が急に近づけばそうなるですかね」


 ヒスイ色の水着が薄く透けた、ミルク色のパレオで長身を包んだリオンがこちらに歩いてくる。

 風に吹かれた灰色の髪を押さえる、曙光に照らされた姿はなかなかに幻想的だ。


「おはよう二人とも!」


「「おはよう女神様」」


 同じ発想にいきついたらしいクローリスと苦笑いしながらあいさつをした。

 事情がわからない女神様はかわいらしく小首をかしげるばかりだ。

 話せば全員が赤面するしかないから、説明はしないでおこう。

 




    ――◆ ◇ ◆――


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