第45話【子爵の面談】
「ロングソードが欲しいという話だが、正規品の特徴は知っているかな?」
子爵が組んだ足に手の平を乗せてリオンに視線を送る。
知り得る情報を持っているかでリオンの本気度をはかるつもりだろう。
「特徴は、王家のお抱え鍛冶が作る事と、付与魔法がかけられている事です」
「付与魔法の内容は?」
「……シールドです。ポンメルを起点として障壁を作ります」
「なぜシールドが必要?」
「騎士は魔獣と戦う可能性があるためです。魔獣は様々な攻撃をしてきます。位階が上がれば魔法も使います。片手に盾を持つ事ができないロングソード使いに付与魔法のシールドは必須です」
リオンの表情が怒って見えるほどこわばっている。
子爵はリオンを試しているのか。明らかに部外者が知らない質問をしている。
「ふむ……」
矢継ぎ早に質問していた子爵は一つうなずいたきり黙ってしまった。何を思っているのか表情からはうかがえない。
「正規品の値段はいくらで、入手方法は」
「領都のヨハネス商会と金貨五枚で買うと約束しました」
五十万ディナ! 初耳だ。ウィールド工房でジェシカがふっかけた値段じゃないか。
「それだけの金を君はどう用意する?」
手に入れるまでの道筋を描けていなければ絵に描いた餅だ。
「第二港にいけば銀貨十二枚で海外のロングソードが手に入ると聞きました。付与魔法なしで、姿だけを模したものらしいですが、それを使ってスキルを使い、銅級を目指します」
十二万ディナを消耗品であるメイン武器に使う、リオンはそんな高いハードルを越えなきゃ行けなかったのか。
緊張したリオンの横顔に普段のどこかのんびりとした雰囲気はみじんも感じられない。
「では目下、リオン君の問題は貯蓄にあるということだ。しかし薬草摘みから脱しても十二万ディナをソロで貯めるには限界があるだろう。そこで、だ」
一旦言葉を句切った子爵がこっちを見た。はい、わかってます。僕も必要なんですよね。じゃなければ呼ばれませんよね。
「ザート君、提案なんだけど、リオン君とパーティを組むのはどうかな? きけば二人ともソロ冒険者だそうだが、時間が合えば一緒に仕事をするというじゃないか。パーティを組めば出来ることも増えるんじゃないかな?」
お言葉ですが閣下。僕が出来る事は減るんです。人目があると書庫の機能が十分に発揮されないんです!
「こちらにも事情というものがありますよ」
「では組んでくれないのかね?」
間髪入れずに子爵がつめてくる。
「くれないというか……そう、報酬はどれくらいですか? パーティ全体でも簡単に十二万ディナ貯められる仕事なんてないでしょう?」
パーティを組んでもそもそも高額な仕事がなければ宿代など固定費ばかりが出て行って金なんて貯まらない。
「それがあるんだよ」
子爵が楽しげに身を乗り出してきた。まるで酒場で設け話を持ちかける山師のようだ。貴族の所作とは思えない。
「ザート君。あなたたちがパーティを組めば、湖水地方の堤防修理の仕事が受けられるようにするわ。報酬十万ディナ、魔獣狩りという意味でも割の良い案件よ」
成功報酬が十万ディナか。たしかに、それなら移動期間や湖上装備のレンタル代を引いてもかなり利益がでるな。
「でもあそこは沼の巨人がでるじゃないですか」
沼の巨人はほとんど銅級が相手する魔物だ。稼ぎが良くても割に合わない。
僕がジャイアントキリングの手段をもっているので、安全といえば安全だけど、リオンにもできれば秘密にしたい。
まだ魔砂も少ないし、複数で囲まれれば命の危険もある。
「そこは逃げて。ザート君逃げ足速いでしょ?」
簡単に言ってくれるな。ノームの件で逃げ足の速さが知られたからか。
確かに沼の巨人は足が遅いらしいから、乾いた堤防の上にいれば逃げ切れる。
書庫をおおっぴらに使えないのは痛いけど、まあ、割が良くて位階が上がりやすい仕事というなら悪くない。
「わかりました。組みます」
「ありがとう!」
さっきのどこか思い詰めるような表情が無かったかのようにリオンが握手を求めてくる。
リオンは迷うまでもなかったか。出会い頭にパーティ組もうって迫ってきたもんな。
「まあ、暴露すればリオンちゃんには目をつけていたのよ。今ここで堤防を修復するレベルの土魔法を使える人は他にいないから」
「そろそろ堤防を塞がなきゃまずいなって思ったときにこの話が来たから乗らせてもらったわけだ」
「よろしくザート!」
三人の息のそろった喜びっぷりをみると、なんかはめられた気がしないでもないけど……まあ、いいか。
―― 主人公、湖水地方調査まで後三話 ――
――◆◇◆――後書き
「お前等くっついちゃえよ(パーティ的に)」
「戦闘まだー?(チンチン)」
という圧をかんじますのでお待ちくださいませ!
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