第33話【敵国との戦闘(3)〜スズの視点】

【スズ視点】


「指示通り、敵斥候を一人逃がしました」


「ご苦労さまです。ポールには予定通り敵が見えたら仕掛けると伝えて下さい」


 第七小隊の伍長が後方へかけていくのを見ながら、再び馬の腹をけり進み始める。

 前にみえる街道は左の川から少しずつそれていき、しばらく歩けば道の左は森になるだろう。


 今私がいる第一小隊が集団の先頭を進み、間を空けて第七小隊、最後に難民団が進んでいる。

 難民の中にティルク人の冒険者がいたので護衛は必要無い。


「作戦はいいけどよ、ほんとにクランリーダーだけで足止めするのか? 魔法の手数で人数をごまかすにも限界があるだろ。ちゃんと引きつけられるのかよ?」


 隣でくつわを並べるのは敵の領軍を潰してまわって恨みをかった犯人、第一小隊隊長のハンナだ。

 今は兜と面頬めんほおで隠れているけれど、乱雑に切った明赤色の髪と一文字の眉、何より女にして身長一・八ジィという長身が人目を引く。


 第一小隊はティルクの全身革鎧に身を包み、敵の陣形を弓で崩して大太刀おおだちで切り伏せるのを得意としているけれど、その中でも常に先頭を走っている。

 私が少佐の変わりに指揮をするようになってから、ろくに指示をきかない問題児でもある。


「ええ、大丈夫だと思いますよ。敵が森に入れば容易にでられないトラップをしかけるといっていましたから。下手すれば行動不能にしてしまうかもしれません」


 一個小隊が魔法を斉射するくらいは出来るといっていたけれど、斉射して終わりだとは言っていない。

 足止めするといった以上、状況によっては行動不能くらいはやりそうだ。


「いやいやいや、ないだろスズ。あんまり常識外れな冗談は笑えないぞ? 右翼にいるのは二百で、あたしら二個小隊の二倍以上だ。どう考えても無理だろ」


 ハンナは呆れたように鼻をならしていうけれど、こちらは半分くらいは本気だ。


「信じられなくても、可能性がある、くらいに考えておいて下さい。戦闘中にポカンとされても困りますから」


 私の言葉で多少興味をもったのか、ハンナが大太刀の柄を叩いている。


「そんなに強いのか」


「……強いですよ。私が理由もわからず剣だけで負けたんですから」


 彼を見ればハンナも上官の指示を仰ぐ事を思い出すだろうか?


「はは、ほんと笑えねー」


 今のところ可能性は低そうだ。

 私は皇国人として、他人の優れた所を否定しない。

 ハンナの独断専行をとがめつつ、小隊単位で敵をかみちぎっていく彼女の小隊指揮能を評価している。

 コリーの諦めの早い所を叱りつつ、陣地形成における非常な集中力を評価している。

 エヴァの嗜虐しぎゃくに溺れる様に嫌悪しつつ、敵の心を折る演技を評価している。


 ハンナはどうだろうか。


「ハンナ、クランリーダーの陽動が始まったようです。私の話が真実かどうか、その目で確かめて下さい」


 前方で混乱する敵右翼の姿を確認し、私は再び馬の足をはやめた。


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