第34話【敵国との戦闘(4)〜スズの視点】
「おいおい、どんな手品を使ったらたった一人であんな幅広く
馬を駆る左手の矢の雨をみながらハンナが呆れている。
街道を台形のように囲んでいた敵の連合領軍は真後ろの森から断続的に繰り出される矢の雨によって混乱におちいっていた。
矢そのものは普通で、敵一般兵が即座に矢傷を負うような強さではない。
ある程度攻撃をした後、クランリーダーは矢を放つのをやめた。
「ま、でも矢の強さはあたしらの方が断然上だな! 敵の左翼を叩くぞ!」
ハンナは部下に激をとばすと、自分しか扱えない特製の強弓と、えびらから取り出した矢を左手に持って馬の腹を蹴った。
「ハンナ! てはずどおり、弓だけにしなさいよ!」
どうにも不安がぬぐえない。
ハンナが予定にない行動をするのもそうだけど、公爵軍の数が少ないのがやはり気になる。
けれど、今更変更はできない。
突撃に同行しない私は後続の第一小隊に道を譲り、彼らの動きを見守るため、高所に移動した。
第一小隊は道を外れて右を大きく迂回し、浮き足立つ敵左翼の背後にあっさりと回りこんだ。
なにもせずに私達が敵左翼の後ろに回りこもうとすれば、敵右翼が魔法など遠距離攻撃を仕掛けてきただろう。
クランリーダーの陽動のおかげで第一小隊は弓を打ちやすい敵の右側、しかも背面という絶好のポジションを手に入れた。
状況を観察していると、ハンナが矢を放ったようだ。
異質な風切り音の後に、ハンマーを振り抜いたような打撃音が響く。
次の瞬間には敵兵が地面に縫い止められていた。
他の騎兵が放つ矢も、ハンナにはおよばないけど強力だ。
大型の弓から放たれる矢は一気にSPを削りきり、敵を倒していく。
右翼が立ち直りつつあるなか、左翼も背後からの中距離攻撃に隊列を乱されていく。
第一小隊はこの後、公爵軍の後ろを攻める予定になっている。
高所からみる限りでは予定通りになっている。
隊列を整えなおした敵の右翼に行く手を阻まれたように見せかけて森の外側を進み、キリの良いところで谷へとつづく森へ入る。
焦って谷に逃げ込んだと思わせて森の中でクランリーダーに足止めをさせるという策だ。
けれど、無情にも私達のもくろみは一発の魔法の轟音により崩れ去った。
(やぱり公爵軍ですか!)
公爵軍の中心から第一小隊に大規模な魔法が放たれ、小隊の中央が爆風で吹き飛ばされた。
幸い殺傷能力はそこまで無かったらしい。
馬ごと倒された者達も大太刀を構えようとする。
けれど、おそらく追撃の魔法の方がはやい。
迫り来る公爵軍の魔法。
しかし、高位の魔法使いと一般兵による攻撃は反転してきたハンナ達の避け矢の魔道具によってそらされた。
「早く立て! 馬を捨てて逃げるぞ!」
公爵軍に応射しながら叫ぶハンナに向けて、範囲のせまい強力な魔法が放たれた。
「ハンナ!」
避け矢の魔道具では対応できない魔法がハンナに直撃した瞬間、思わず押し殺した叫び声を上げた。
ハンナの身体は馬の背から右側にずり落ちるように地面に着いた。
まずい。
ハンナの身体の周りを朱い雷が走っているのがここからでも分かる。
常人の身体強化と違い、彼女の身体強化は外見の変化をともなう。
そして強化する対象は自分自身に限られない。
扱う武器にも影響が及ぶのだ。
端的に言えば。
これから放つ彼女の矢は公爵の強力な甲冑も打ち抜きかねない。
「だめハンナ!」
もう間に合わないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。
ハンナの右手がはじかれるようにぶれ、矢が放たれた瞬間——、朱い閃光を青い光が包んだ。
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