第01話【グランベイ上陸】


 僕とリオンがグランベイの土を踏んだのは、空のあかね色があせた頃、夜になる手前くらいだった。


「なんとか明るいうちに上陸できたな」


「もうじれったくて海に飛び込みそうだったよ」


「僕としては飛び込まれなくて良かったよ。気持ちはわかるけどさ」


 苦笑しつつ、リオンのぼやきにも同意してしまう。

 入港の際に船がここまで順番待ちするとは思わなかった。

 グランベイほど大規模な港になると、商船を引っ張って岸につけるタグボートがフル稼働しても、朝夕の忙しい時間は渋滞になってしまうらしい。


 海を振りかえると、まだまだたくさんの大型船が順番待ちをしていた。

 あそこで碇を下ろしたまま入港せずに夜を明かす船もあるんだろう。


「地上も活気がすごいね!」


 海上で順番待ちをしていた時からずっとグランベイの街並みはみえていたけれど、リオンの興奮はまだまだ収まらないらしい。

 とはいえ、僕も興奮している。

 忙しく行き交う活気に満ちた人々の迫力に押しつぶされそうだ。


 港の顔といえる大商会の建物の前では、荷運び人が忙しく商会を出入りしていて、ふらっと足を踏み込めば怒鳴られることは間違いない。

 目的地を確認して一気に突っ切ろう。

 腹にひとつ力を込めると、リオンと一緒に喧噪の中に飛び込んでいった。


   ――◆◇◆―― 


 ギルド・グランベイ支部は、石造りのがっしりとした建物で、大商会二つ分ほどある中央通りの角地に堂々とたっていた。


「今日の内に活動申請だけしておこうか」


「そうだね、早くゆっくりしたいよ」


 ここに向かうまでの船内で、グランベイに着き次第、まとまった休暇をとる事を決めていた。

 領都からロター港までは馬車で移動していたし、ロター港では一泊してすぐにシド港行きの船に乗った。

 シド港でシルトの事件を解決するので二泊、そしてグランベイに着くまでは護衛をしながらの船旅だ。

 つまり三週間弱くらい休んでいないことになる。


 そして懐も、ロターの海岸で宝箱を回収したおかげで余裕がある。

 約金貨七枚と言えば、銅級半ばの冒険者一人が一月で稼ぐ金額だ。


 もちろん冒険者は装備など支出も多いからすべて使えるわけではないけれど、僕とリオンは、もう食い詰めものは卒業といっていい。

 目標は変わらないけれど、一刻一秒を争う話じゃない。

 この辺りで一度落ち着こうという話になったのだ。


「すいません、今日グランベイについたのでこの支部での活動申請書をもらえますか?」


 丁度空いていた窓口で、明緑色——グリーンゴールドの髪をした中つ人の受付嬢に声をかけた。


「えっ」


「えっ?」


 えって何? なんで固まるの? 


「今日の最終便はもうとっくに着いている時間なのに、今まで何してたんですか?」


 若干とがめるような口調で受付嬢が書類を渡してきた。

 なんだかわからないけど怒られている。


「陸路じゃなくてたった今船で着いたんですよ」


 必要な情報を申請書類に書き込んで返す。


「海路かー、そうきたかー、なるほどなるほど」


 一人でブツブツとつぶやいているかと思うと受付嬢はがばりと立ち上がった。

 

「もーなんでこのタイミングかなぁー? 急いでこっち来てください。どうせ私はギルマスに怒られるけど、今からでも押し込んだ方がまだましです」


 そういってカウンターを出ると、僕の腕をとって石造りの階段を登っていった。


「歩きながらでいいんで、行き先を教えてくれませんか?」


 自己解決されてもこちらは何が何だか分からない。


「たまった依頼を冒険者に割り当てる集まりです。これに参加しないと二週間はろくな依頼にありつけないですよ?」


 うわ、なにそのろくでもないシステム。

  冒険者は個人事業主で社員じゃないのに、ここじゃ依頼を選べないのか?

 そんな事を考えていると、明緑色の髪をした受付嬢はノックもせずに扉を開けた。


「すいませーん、冒険者二人、追加お願いしまーす」


 『大将いま空いてる?』みたいなノリで入るなよ! 





    ――◆ 後書き ◆――


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