第02話【受付嬢に確保された】
部屋に入った僕達をむかえたのは冒険者とギルド職員、両方からのつめたい視線だった。
第一印象は最悪だ。もうちょっとはいり方があっただろう。
ノープランおじさんのような受付嬢の後ろに黙ってついてきた三秒前の自分を呪いたい。
「……位階とパーティ名は?」
「銅級十位、プラントハンターです」
説明をしていた男性が淡々とした様子で質問をしてきた。
明赤色の髪をオールバックになでつけた姿からは覇気を感じる。
「そうですか……まあいいでしょう。みなさん、十分ほど待っていて下さい。新人の能力を聞き取ってから、あらためて依頼の振り分けを行います」
方々から不満の声が上がるが、椅子を蹴るような荒くれ者はいないみたいだ。
冒険者の集団をかき分けて説明をしていた男性がやってきた。
「グランベイ支部ギルドマスターをしているレーマです。さっそくですが、ここグランベイでは現在、支部にきた依頼を各冒険者に振り分ける形式を取っています」
「あ、それさっき説明しましたよ」
間髪をいれずに受付嬢が指摘する。
かぶせ気味な発言のせいでレーマさんの顔が無表情になってしまった。
君、名前は知らないけど、ちょっと空気よんで?
「……そうか。なぜそうしているか、という理由については?」
「だぶついた依頼と割の良い依頼をセット売りするため、という理由ならまだ話してません!」
ダメな娘かな?
まぶしい笑顔でギルドの裏事情を暴露しないで欲しい。
後ろでは何人かが「そうだったのか! だまされてた!」みたいな顔してるよ?
これまでのやりとりだけで、レーマさんに同情してしまう。
「ええと、今から依頼を振り分けるんでしたよね? どうやってするんですか?」
仕方ないので助け船を出すことにした。このままじゃ十分たっても話がおわらない。
レーマさんは諦めたような、ちょっとほっとした表情で何枚かの依頼票をとりだした。
「君たちの得意分野を知るために代表的な依頼票を用意しました。この中でできる依頼を教えてください」
そういって順番に依頼票を出してきた。
……
・ネヴァダ商会の荷受け確認作業
・バーゼル帝国領までの往復航路の護衛(要経験。往復期間二ヶ月の予定)
・北岬要塞の歩哨(夜勤あり)
・初物グランベッリの収穫作業(水属性魔法必須)
・水稲、小麦の収穫
・港湾整備(航行の障害となっている沈没船のマスト切断)
・ポーション作成
・魔道具修理(要魔方陣知識)
……
「商船の護衛はここに来るまでにやっていましたけど、外国航路は遠慮したいです。水属性魔法は使えます。魔方陣の知識もあります」
せっかく帰ってきたのにまた二ヶ月船に乗るのは遠慮したい。
農作物の収穫は水稲・小麦は暑いだろうけど、たしかグランベッリは夜明けに水魔法で一気に収穫するはず。時間当たりの報酬は高いんじゃないだろうか。
「魔方陣知識……生産系の依頼を受ける予定は?」
ポーション作成はできるけど設備がいるし、などと考えていると、いつのまにか隣にいた受付嬢がぼそっときいてきた。
「生産系? 戦闘職だけど錬金系もあればやろうかと思うよ。雨の日とかに出来るし」
いきなりがしっと肩をつかまれた。身体の中を悪寒が通り抜けたとおもった瞬間、
「レーマさん、生産系の銅級を見つけました! 私、この人とパーティ組みます!」
小柄な身体が僕の肩に飛びついてきた!
「なっ!?」
反対を見ると、リオンがこれまで見せたことのない顔で驚いていた。
「良かったなクローリス。これでもう受付嬢のアルバイトをしなくてすむぞ」
レーマさんの顔がすごく嬉しそうだ。
「はぁ!?」
どういう状況だよ。
ピンと立った犬耳の幻が見えるほど警戒心を露わにしたリオン、拳を握りしめるギルドマスター、肩にぶらさがる受付嬢。
ってかあんたアルバイトだったのかよ! どおりで受付嬢にしては雑すぎると思った!
じゃなくて、受付嬢がパーティを組むってどういうことだよ。
レーマさん、厄介払いができたみたいな顔してないで説明して!
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