第14話【本当の価値】


「ジェシカ、さすがにうそだよな?」


 立ち直れないシルトを見ながらカウンターのジェシカに尋ねる。


「うそブー、そもそも親方が既製品にそんな値段つけるはずがないプー」


 腹立つ。

 こいつは一日一回煽らないといけない病にでもかかっているのか。


「先に予算を言わない二人が悪いんだよー。ほらはよ言えー」


 まあ、たしかにそれは道理だ。


「……一万」


「僕は一万五千ディナだ」


「しっぶ」


 ジェシカが速攻で切り捨てやがった。


「アホか! 他の奴らなら武器防具あわせて一万ディナだぞ! むしろ武器だけにこれだけつぎ込む方が異常者だ!」


 おいシルト、僕は正常だ。異常者はお前だけにしてくれ。


「ふーん……ならザートはこれかなー」


 ジェシカはそんなシルトの抗議を無視し、壁にあった一振りのショートソードを僕に差し出した。


「じゃあ、ちょっと振ってみるよ」


 旅装用の袋からバックラーと取り出して左手につける。

 鞘から抜いた刀身は重ね厚く、幅広で鍔元から適度に研がれている。

 ゆっくり大きく切り下ろす、切り上げる、突く、刻む。

 すごいな。自分のイメージ通りに身体が動く。


「ジェシカ、これはいくら?」


「一万四千ディナ」


 うん、値段もちょうどいい。


「わかった。これをもらうよ」


「まーいどー」


 後はシルトなんだけど……他の剣を振ってはさっきの剣を見ている。どうしても最初の剣に未練があるらしい。


「シルトー、それ中古だから一万二千ディナー」


 ジェシカそれ早く言って。


「ほんとかっ! ……いや、ほんとうか?」


 子供のようにキラキラした目に疑いの影がさす。

 ジェシカ、シルトのピュアさを返せ。


「ほんとーほんとー。即金な」


 けだるげな声でかえすジェシカはカウンターに戻っていく。

 よしっ、予算オーバーだけどいける! とかシルトは全身で喜びを表している。


「なあジェシカ、一万二千って嘘だろ、ホントはもっと高いんじゃない?」


 一足先に会計をしながらジェシカにきいてみた。

 シルトが振っているものは既製品じゃ無くてオーダーメイドだ。

 いくら中古でも三万ディナはくだらないはず。


「多少は値引いて良いって親方から言われてる。でもシルトには言っちゃだめだからね」


 珍しくジェシカが視線を合わせて言ってきたので、思わずうなずいた。


「でもなんで?」


 ジェシカはたった今僕らが買った品の記録を帳簿につけているので表情が見えない。


「分不相応な品だとわかれば剣が傷つくのを怖がるようになる。命のほうが大事なのにね」


 ジェシカの声は誰かを悼むような湿り気を帯びていた。

 あの剣はオーダーメイドなのに傷一つなかったのでおかしいと思っていたんだ。


「そうか……あの剣にはそんな悲しい話があったのか」


 思わず此方の声も沈んでしまう。

 冒険者は死に近い職だと改めて思い知らされた。


「いやないない。あれは第四の冒険者がオーダーメイドしたときの影打ち」


 そこにはいつもの半目で手をひらひらさせている猫がいた。


 オーダーメイドの刀剣を作るときは数振り同じ造りで作刀し、一番良い物を納品する。そこで選ばれなかったのが影打ちだ。


 ってか僕のセンチメンタルをかえせよ!






    ――◆ 後書き ◆――


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