第15話【馬車にて山の要塞へ】


 ウィールド工房で無事武器を手に入れた僕たちはその後も順調に旅の準備をしていった。

 とはいっても、ここブラディアでは他の辺境のように野営の準備などはあまり要らない。


 なぜなら各地に『出城』と呼ばれる拠点があるからだ。

 ブラディア長城壁群は第一~第五長城壁、中央幹線城壁、山城壁、海城壁からなっている。

 各壁の交点には山岳要塞、十字街、港湾要塞があり、それぞれ街の名前はあるけれど、冒険者用語では『出城』と総称されている。


 中央出城などは宿屋、食料店、野営品レンタルショップ、素材を保管する貸倉庫などがひしめいている。さらに城壁内には村があり、そこも拠点になる。


 そういうわけで、今シルトと僕は日用品を入れたバッグ一つで第一長城壁の上にある駅舎の上にいる。


 中央長城路は馬車が複線で通っているので下手な街道よりも便数が多い。

 だからブラディアの冒険者の生活は「出城で稼ぎ、城内で休む」事も出来る。

 でも、


「これから当分は出城暮らしだな」


 シルトの言うとおり、新人鉄級冒険者に稼がず領都に戻るという選択肢はない。

 たまに休んで領都で休暇を取れるのは銅級以上の冒険者だ。


 鉄級が層の厚い銅級に入るには『空席』ができなければ入れない。

 上を目指す以上、誰も彼も空席を取り合う商売敵だ。


 鉄級はスライムなど低位の魔獣を駆除してコツコツ凝血石を手に入れ、素材を採取してくる。

 それらを各出城のギルド支部で換金しても粗利は一万ディナ弱だ。生活は出来ても領都に戻る余裕なんてない。


「どこを拠点にする? 俺は第二レミア港にするつもりだが」

 第二レミア港、ロターか。あそこは隣国のバーゼル帝国はもちろん、ティランジア諸侯連合にも開かれているからな。鉄級冒険者は渡航できないけれど、何かあてがあるんだろう。


「僕は第二ブラディア要塞にするつもりだ」

 第二ブラディア要塞はブラディア山三合目付近にあって、内外に鉱山、遺跡やダンジョンがある。

 ジョアンの書庫の採取能力は鉱山と相性が良いはずだ。収納した素材売却でかなり稼げると踏んでいる。


「そうか。じゃあ先に行かせてもらうぞ」

 ちょうどよく来ていた第二レミア港への直行馬車に乗り込むとシルトはニカリと笑って手を振った。


 多分シルトもソロ冒険者になるだろう。

 ソロ向きのスキル使いや法具持ちはソロ冒険者にならざるを得ない。

 互いに支え合うパーティーが嫌というわけじゃないけど、法具を見せた結果、奪い合いの末起きた悲劇なんて両手に余るほどある。

 確かジョアン叔父もソロ冒険者で狩人になったから有名になったはずだ。


「ああ、先に行っててくれ。銅級行きは僕がさきだけどな」


 僕も笑って左手を挙げて見送った。

 商売敵だからといって、相手の前途を祝っちゃいけない法はない。


 



    ――◆ 後書き ◆――


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