第13話【初めての武器、入手】
森を掃除して回って、たまに野営をして。
そんなことを繰り返して『書庫』の扱いに慣れた頃、一ヶ月のブートキャンプの修了式が終わった。
第一長城壁を降りていく新人達は、一ヶ月前とは違い、顔つきは希望にあふれ、体つきはまともな『一般人並』になっていた。
服装は最低でも一般市民と同レベル。中には高価な古着を着ている者までいた。
「なあザート、お前も第二長城外に行くんだろ? 装備はどうするんだ?」
法具を手に入れたせいでソロで活動しようと考えている僕でも、一ヶ月も過ごしていれば顔見知りの一人や二人は出てくる。
僕に話しかけてきているクリーム色のくせっ毛に浅黒い肌のシルトもその一人だ。
「短めのショートソード一択だろ。安くて壊れにくい。金がたまったら片手鎌槍、かな……」
隣を歩くシルトがドン引きしている。自分から聞いたくせに引くなよ。
「ショートソードか。普通だな。そこはレイピアとかあるだろう?」
「じゃあお前は何選ぶの?」
「ガントレットにあったショートソード」
「お前もじゃないか!」
つっこみつつ、そういえばこいつも僕のバックラーみたいな『お下がり』持ちだったなと思い出す。
農家出身だというわりには体幹がしっかりしているし、お互い訳ありなんだな、というのはなんとなく察していた。
「それじゃ行くところは一緒か」
「そうだね。ショートソードみたいな地味な武器といえば」
「「ウィールド工房」」
そして僕たちはギルドから北へ、壁に沿って歩いた先にある工房に向かった。
新人で農作業をしていたって、本気の奴らは遊びなんてしていない。
飯を食っては先輩から情報をもらい、空いた時間に聞いた店を見て回る。
そんな中で、僕が目をつけていた武器屋はウィールド工房だった。
「いらっさいっせー」
三角の茶色の耳がお辞儀の代わりとばかりに伏せて戻る。相変わらずやる気がない。
「ジェシカ、まだクビになってないのが奇跡に思えるよ」
カウンターに顎をあずけ、半目でこちらをみているのは獣人のジェシカだ。
一応この店の看板娘として働いている。
彼女も僕らと同じく食い詰めてブラディアに流れてきた口だけど、持ち前の無気力感で働き先を(方々でクビになり)転々としていたらしい。
「寛大な親方に感謝してるよー」
あの人の場合寛容というか、無頓着なだけな気がする。
「親方は?」
「あー、第三の鉱山にレア鉱石を掘りにいってる」
ウィールドさんは生粋の職人で、材質にこだわるあまり冒険者になったほど凝り性な人だ。
「じゃあ仕方ないな、どっちにしろ既製品を買うつもりだったんだ。自分たちで選ぼう」
シルトがショートソードがかかっている壁に歩いていく。
ショートソードは奥が深い。
ロングソードやレイピア、ダガーといった明らかな特徴を持っていない剣は大体ショートソードと呼ばれている。
長さも、重心も、つばも、研ぎも違うものが刀架に並んでいる。
でもウィールドさんのショートソードは適当に組み合わせている訳じゃない。
バックラーと組み合わせるならシールドバッシュ後に使う事が多いから短めで研ぎは鍔元まで研ぐ。
二刀流で使うなら鍔元は特に鈍くしておく。
ガントレットなら……ちょっとわからないな。
シルトを見てみると離れた所で素振りをしていた。
「よし、やっぱりこれだ。これならガントレットで受け流しつつ両手で重い一撃を加えられる……! ジェシカ、いくらだ!」
「50万ディナ」
シルトが崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます