第43話【クランの新事業を伯爵領に売り込む】



「私からも議題を提案してもよろしいでしょうか?」


 ゾフィーさんの話は続く。


「クランの収支に関する話です。我々管理部門と開発部門、それに旧皇国軍の第一、第五、第七小隊、以上の部門について、いまのところ利益を上げる手段がありません」


 ゾフィーさんが淡々と言葉をつづける。


「冒険者部門でかせいだ金を再分配するという方法も考えられますが、一般冒険者から不満があがる可能性があります。この問題についていかがしましょうか」


 気軽なフリートークだと考えていたけれど、ここで事前調整なしでそれを聞くか。

 これはゾフィーさんからの挑戦だな。


 そういう目でみれば、こころなしかゾフィーさんの口のはじがつり上がっている気もする。

 上等じゃないか。


「あの……管理や開発部門はしかたないですけど、ぼくら旧皇国軍の三小隊もなにか独自に利益を上げるべきだとおもいます。今プランがあるわけじゃないですけど……」


「そうだなー。なにもしてないと住民からの風当たりも厳しくなるだろうしなー」


 ポールの言葉にコリーが続く。


「ふむ、戦時なら第一と第七の組み合わせで威力偵察をしてもらう所だけど、今は平時だし、敵の陣地さがしなんて……そういえば、オーガー討伐のために作った道についてバーベン領主のウォルストフ伯爵から感謝の書状が届いてたんだったな」


 先ほどスズさんからもらった資料のなかに手紙が入っていたんだった。

 第三長城壁より先は領主ですらまともな地図をもっていないらしい。

 開拓村周辺、道などが描かれた簡単な地図はあるけど、魔素だまりや地形などを網羅したものがない。


 現場をよく知っているのは冒険者だけど、彼らは情報を抱え込んでしまっているのだ。

 冒険者として気持ちはわからなくもないけど、貴族という為政者をめざしている僕としては正確な地図が欲しいという伯爵の気持ちもわかる。

 よし、これを売ろう。


「領主は領内の地図や、整備された道を欲しがっているんだ。アルバトロスは今まで領内を飛び回っていて、空からみた地図をたくさんもっている。これに地上からの情報を書き加えよう。第一・第七小隊を再編した偵察専門のパーティが歩き回って情報を集めるんだ」


「そっからその地図を元に、第五が道を整備して領主達に売りつけるってわけか?」


「そうだ。あらかじめ話を通しておけば地図と道をセットで売れるんじゃないかな? どうゾフィー?」


 クランとしても、土地の一部を使わせてもらっているので、伯爵に恩をうっておいて悪いことはないはず。

「ウルヴァストン様の元で働いていた経験上、ウォルストフ伯爵は確実に買うと思います。報酬額の交渉はまかせていただけますか?」


「皆、第一・第五・第七小隊の新事業開始に賛成してもらえるか?」


 円卓の皆は右手を挙げて肯定だ。


「全会一致だ。ゾフィーさんに任せるよ」


 よし、ゾフィーさんの挑戦はクリアしたぞ。

 クローリスがゾフィーさんに何か言われて驚いているけど、どうせ責任者として仕事しろとかいわれているんだ。

 さすがにオーバーワークかもしれない。

 後でなにかねぎらってあげなきゃな。


「団長、俺からもいいだろうか」


「はい、オットー」


「第四長城外で活動したい。俺たちはパーティでオーガーを倒せば銅級中位の実力を認めるとギルドとの協議で決めているが、皇国軍はもっと上の位階を狙えるはずだ。独立戦争をするというのであれば凝血石も大量に必要になるだろう。なんとか銀級にあがる方法はないだろうか」


「凝血石の確保は俺も重要だと思う。俺たち魔法戦士は当然必要とするし、魔弾だって魔力なしで撃てるわけじゃないんだろう?」


 オットーとバスコが積極的な意見を出してきた。

 凝血石についてはたしかに必要だけど、何百人も一気に銀級冒険者にはできない。


「確かに、クランとしても銀級冒険者は多い方がいい。実力の高いパーティを順番にギルドに推薦して交渉してみようか。今銀級冒険者なのは僕とリュオネ、ミワとデボラで四人か……ん?」


 会議室の外が騒がしい。しかも男くさいざわめきじゃなくて女の子達の内緒声だ。

 やっと来たか。




    ――◆ 後書き ◆――



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


長いので二つにわけました。


以前にビーコの尻尾のあたりでデニスがとっていた地図が伏線でした。

これからブラディア内の六家の貴族とも付き合うので、こういう話も出てきます。


ああ、次回にようやくハンナを出せる……



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