第44話【リュオネ親衛隊】


「遅れてごめんねぇ? ちょっと”補修”に手間取っちゃって」


 フィオさんに続いてぞろぞろと入ってきたのは、スズさんの看護服をベースにつくった制服に身を包んだ元【伏姫】の人達だ。


「あ、あの遅れてすいません! この度リュオネ様のお世話周りをいたします衛士隊隊長のミワです! 若輩者ですがよろしくお願いします!」


 一番背の低いミワさんのお辞儀にまわりが合わせる。

 それに対して例の人が一番早くに反応した。


「はぁ? お世話まわり部隊!? それって親衛隊じゃないの! やだ私も立候補す……る?」


 エヴァが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって手を挙げる。

 しかし挙げた手は途中で中途半端に止まってしまった。

 それは集団の後ろの方で背をまるめてこそこそとしている狼獣人に気づいたからだ。


「……え? ハンナ? 貴女なにしてるの?」


 僕やクローリスなど事情をしる面々は必死に笑いをこらえている。


「う……うるさい! 私は、衛士隊のハンナだ! 文句あるかぁ!!」


 会議室にハンナによる逆ギレ気味の自己紹介が響く、そしてそれに負けないぐらいの爆笑が続いた。


「アハハハ! ハンナ、お前! いないと思ったらなにしてんの!?」


「ふふ……うん、似合ってるぞ? うん……クッハハハ!」


「もしかして衛士隊の遅刻はお前が出たくないとごねていたからか?」


 元同輩のようしゃない笑いを受け、屈辱と恥ずかしさでハンナが真っ赤になる。

「ごねてない……その……」


「あー、やっぱり収まらなかったですか。やっぱりバストは余裕をもってつくらないとだめですねー」


 モジモジと理由について口を濁していたハンナだったけど、クローリスが見事に暴露してくれた。

 フィオさんがいっていた補修ってそういうことか。

 背中のホック辺りが壊れたんだろう。


「皆、静粛に!」


 スズさんのよく通る声が会議室に響くと皆ぴたりとおしゃべりをやめた。

 笑いが止まらないのはクローリスくらいだ。


「ハンナ=レトガー少尉は皇国軍にあって小隊長を務めたが、先日の難民護送において独断で動き、二個小隊と護送対象を危険にさらした。そのため、他小隊長のようにクランの兵種長につけず、ミワ率いる衛士隊の隊員に降格させた。今回は副団長の意向で軽い懲罰としたが、皆冒険者となっても軍規を守り、綱紀粛正こうきしゅくせいにつとめるように!」


 せっかくのスズさんの訓示だったけど、すぐに空気はゆるんでしまう。

 なにしろ懲罰ちょうばつの内容があれなのだ。

 転属以前の問題なのだ。

 綱紀粛正もなにもあったものじゃない。


「ミワさんたち元伏姫はかわいいけど、ハンナ……よくそのサイズの服があったわねぇ。クロちゃん、私の分はない?」


「クロちゃんはやめて。ありますよ人数分」


「やった! 私さっそく軍規破ってくる!」


 バカな事をいいだすエヴァだったけれど、その考えは予測済みだ。


「エヴァの場合は特例としてスズさんの元についてもらいます」


「ア、ハイ……」


 一発で萎縮するエヴァと男性陣。スズさんの下ってそんなに嫌なのか?

 スズさんがかるく眉をひそめている。

 自分が恐れられていることにいまさら傷ついたのだろうか。

 しかし次の瞬間にその口元は嗜虐しぎゃく的につり上がった。


「コリー。特例はエヴァだけです。もう一度頭の中で復唱しなさい」


 怪訝そうにしていたコリーだったけど、その意味をさとったのか顔を青くした。


「え、うそでしょ? 問題おこしたら衛士隊配属って、俺らも?」


「兵種長全員の制服を作るの大変だったんですよー? ちなみに戦場にでても大丈夫な仕様です!」


「戦場でも着せるつもりかよ……、しゃれにならねぇ……」


 クローリスの一仕事やり遂げた爽やかな笑顔で、男性陣の表情は完全に抜け落ちてしまった。

 がんばれ。



    ――◆ 後書き ◆――



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


ハンナへの罰は以外とほんわかしたものでした。


筆者自身は背の高い女性を笑うことはないです。

むしろ萌えます。


それでもギャップというのは、えてして笑いを引き起こすものなのです。



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