5章:魔人

第01話【無邪気な子供達】


 今日はリュオネと約束した、居住区に向かう日だ。

 久しぶりの”トロール”なので、リュオネが喜ぶものを発掘したい。

 コリーがアルバ文明の皿を見つけたから、古いものが出るといいな。


 そんな事を考えながら階段を降りる。

 出城は上から見ると、長城が角からのびたダイヤの形をしている。

 けれどその中身は石や土がつまっているわけじゃない。

 以前グレンデールと戦ったグランドルの古城と同じく、八方向にある大きな柱から伸びたアーチが中央で交わり、内側で空間をつくっている。


 出城は上だけをみれば村程度の施設しかないけれど、その下に何倍もの容積をもった街をつくることができる。

 ただし、第三十字街は、僕らがくるまでは運送業者の貸倉庫や、馬車の部品置き場ぐらいしかなかった。


 けれど今は全然違う。

 アーチの内側に他の砦のような施設が次々と作られつつある。


「こんなに急に整備するなんて金がかかるってのに、ブラディア王も本気だよなー」


 コリーが壁沿いに作られた階段を降りながら王都のギルド本部に似た中央の塔を眺める。

 あそこには王の代官の館や冒険者ギルドなど、重要な施設が移転してくるそうだ。

 十字街は王の直轄領なので詳細を僕らが知ることができない。

 僕らが使う事を許されているのはあくまで隣接する六爵の領地なのだ。


「ゾフィーさんとクローリス達はもう出発したの?」


「うん、クローリスがめずらしく喜んでたけど」


 リュオネが苦笑しつつ答えてくれた。

 今回クローリスにはご褒美がまってるからな。


 三日前の会議で話した地図と道を伯爵に売り込むため、ゾフィーさん達はビーコに乗りバーベンへと旅だっている。


「良いなぁ、バーベンといえば温泉なんでしょお? ね、団長、温泉に行くときはワタシも連れてって下さいな? 殿下の護衛として」


 しなをつくってエヴァが迫ってくる。

 そう、今回クローリスは仕事を終えたあとしばらく休暇をとる。

 そのまま温泉で羽を伸ばしてくれといったら飛び回って喜んでいた。

 よほど嬉しかったのだろう。


「あの……護衛は衛士隊が務めるから心配しないでください!」


「そうだ! 殿下の護衛は衛士隊の役目だ。エヴァは自分の任務をしてろよ」


「ミワの殿下への忠誠はうたがわないわぁ。ホント衛士隊に入れなくてざんねぇん。あ、でも兵種長にたてつくなんて百年はやいわよ。ハンナ一兵卒ぅ」


 なにか温泉に行くのが既定の事実になっている気がするんだけど……

 後ろでかわされる会話に気をとられて、地上に到着している事に気づくのが遅れた。



「おぉ……」


 上空から居住区が以前と比べものにならないほど広がっていたのは知っていたけど、近くで目の当たりにしたのは初めてなので驚いている。

 目の前には建具をとりつけたり、冬に向けてグランベイ領からもらったワラを床に詰めたりしている人々の姿があった。


「僕がいない間にずいぶん増えたな……」


「団長が助けた中央方面に加えて、南方方面の人達が加わっているからなー。最初に来た北方は数が少なかったから、その五倍以上にはなってるんじゃないか?」


 生活を立て直そうと奮闘している人々の顔には笑顔が見える。

 間近で見ると、僕らのした事の意味がようやく実感できたような、暖かい気持ちになってくる。


「お、コリー! 遅いぞ!」


 よく通る子供の声がしたので先をみると、以前に見た猫獣人の男の子と子供の群れ、そして小さな子の世話をしているジャンヌの姿があった。


「おー悪いなロイ、団長を案内してたから遅くなっちまった」


 コリーの返事でこちらに気づいたのか、子供達がいっせいにこちらを向き


「「「姫さまーーー!!!」」」


 リュオネに向かって子供達が全力で走ってきた。

 人気あるなぁリュオネ。


「あ、団長ひさしぶりー」


 ロイとその仲間は僕に向かってあいさつをしてきたけど、その他の子達は首をかしげたりしている。

 そうか、リュオネと違って僕は第二陣と第三陣が到着した時のあいさつをしてないからなぁ


「え、ひめさまがだんちょーじゃないのぉ?」


「アメリ、前に説明したろ? 団長は男で姫様は副団長だって」


 小さな狐獣人の女の子が僕とリュオネを交互に見ている。

 よくわからないのか、うーんうーんとうなっている。


「わかった! だんちょーさんはおーじさまなの!」


 彼女のなかで何のピースがはまったのか、突拍子もない事を言い出した。

 ロイもちがうと言いつつ歯切れが悪い。


「だってぇ。おひめさまのとなりにいる男の人はおーじさまじゃないの?」


 女の子がぷぅと納得いかなさそうにむくれている。

 さてどうしよう。

 世の中には男女ペアだからといって必ずしも夫婦とは……といってもわからないだろうなぁ。


 遠くに見るリュオネは子供の相手をしているけれど、顔は真っ赤で耳が明らかにこちらを向いている。

 これが、ざわざわしている中でも自分の知りたい言葉だけ聞き分けられるというカクテルパーティー効果か。

 さて、リュオネも聞いているというなら、いよいよどうしようか。


「そうだね、僕は王子様……」


「アメリ! ジルベリーのジャムが入ったパンだぞ! はやくいかないと無くなるぞ!」


 コリーが指さした先では衛士隊が子供達にお菓子を配っている。

 アメリは歓声とともに子供達の塊に飛び込んでいった。


「コリーありがと、おかげで助かったよ」


 幼いアメリだ。すぐに聞いたことを忘れているだろう。


「ホントなー、命の恩人に感謝してくれよ」


 大きなため息をつくコリー。

 命の恩人っておおげさな……


「ねぇ、団長? ワタシが見定めてもいないのに、ハンパなこと言うんじゃないわよぉ?」


 後ろではエヴァが口元に笑みを浮かべながら昏い瞳で僕を見つめていた。

 コリーありがとう。マジでありがとう。




    ――◆ 後書き ◆――



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


作中ではかいていませんが、ジャンヌとコリーは子供にすごくなつかれています。

他のチームがなつかれていないのは、道中があまりにも猟奇的だったからでしょう。



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