第42話【円卓会議の自由時間】


 組織体制についての議論が結論を先送りすることになったせいで中途半端な時間になったな。

 それにしても、まだ遅刻してる奴らはこないのか……


「スズさん、ちょっと見てきてもらえるかな」


(あ、それなら私がいってくるわ)


 察したフィオさんがそろっと席をたって出て行った。

 スズさんが席を外すと何事かと思われるか。

 フィオさんにまかせよう。


 さて、ちょっとフリートークの時間にするか。


「議題にはないけれど、この十字街で活動しはじめて、疑問や、なにか変わったことや気づいた事はないか? 小さな事でもいいから一人ずつ言ってみてくれ。あ、決をとる場合もあるから了承の時は右手をあげてくれ」


「はいはーい!」


 突き抜けるような声でクローリスが手を上げた。


「私が管理する工房で兵器開発をするのは良いとして、量産はどうするんです?」


 意外に当を得た質問じゃないか。クローリスなのに。


「ティルクの人に分業で部品を作ってもらって、皇軍組が自分で組み立てるのはどうだ? 自分の装備への理解にもつながるだろう」


 円卓を見回すと全員右手をあげていた。了承だな。


「あ、いいかしら?」


 次はオルミナさんか。


「私”竜騎兵長”なんて役職もらっちゃったんだけど、ブラディアの竜使いってもうほとんどどこかの軍に入ってるでしょ? 新規に加入する竜使いなんているのかしら?」


 来た、実はさっきのスズさんとのミーティングで朗報をもらっていたのだ。


「ティランジアで活動している第八小隊の諜報隊から、向こうの竜使いのスカウトに成功したという連絡が入っています。数は未定ですけど、期待して良いですよ」


 オルミナさんだけじゃなく他の出席者からも感嘆のためいきに続いて自然に拍手が起こった。

 それはそうだろう。空からの攻撃は敵からされれば脅威だけど、味方であればとても心強いものだからな。


「はいはーい、団長つぎいい?」


「なんだ?」


 コリーがヒラヒラと手をあげていた。


「報告なんだけどさ。居住区で地下室を掘ってたらこんなものみつけた」


 スズさんを中継して渡されたのは複雑な紋様が入った皿のかけらだった。


…………

陶片:アルバ魔法文明の皿のかけら

…………


「アルバ文明の皿みたいだな」


 そういえば十字街の居住区の外側は時間が無くて表面の整地しかしていなかったな。


「お、さすがー。他にも色々出てきてさ。団長なら値打ちものかどうかわかるだろうから見てみてよ」


 俺は骨董屋じゃないんだけどなぁ。

 優先度は低いからヒマな時にでも掘るか。

 もう僕の場合上に人が住んでいてもトロールできるし。


「……リュオネ?」


 気がつけば隣でリュオネが何か言いたそうな顔でうずうずしていた。


「いつ行くの?」


「いつって……時間がある時かな」


 僕がぼんやりした答えを返すと、リュオネのテンションが明らかに下がった。

 狼耳もかろうじて立っているけれど、今にも伏せてしまいそうだ。

 候主として伏せさせるわけにはいかないのだろう。


「……なるべくはやくに」


 耳がピクッと動き、尻尾がパタンと一度動く。

 なんだそれは、もう一声ということか。


「三日後はどうだ?」


「うん!」


 にへーと顔をゆるませるリュオネ。

 耳も嬉しいという意味で伏せてしまっている。

 候主の威厳はどこにいったんだ。


「お二人とも」


 スズさんの声で我に返るとまわりから暖かい目を向けられているのに気づいた。

 一部暖かいというか、チリチリとした敵意を向けてくる人がいるけど。

 


「ああ……と、ところで、私からもいいだろうか」


 フォローしてくれたのか、ジャンヌが右手を反り返るようにして挙げて発言を求めてきた。

 居住区の屯所によくいるから住民関係かな。


「ティルク人と一緒に避難してきた中つ人も一定数いるんだが、彼らには住居を与えず、元々あった宿に有料で泊まらせているだろう。彼らから不満があがっているんだ」


 なるほど、ティルク難民ではなく、中つ人の難民からか。

 真面目なジャンヌだから深刻に受け止めているのだろう。


「あ、私もふまーん。ここ倉庫ばっかりで遊ぶところがないでーす」


「そうか、ジャンヌの話題に戻るぞ」


「やだはやすぎぃ」


 エヴァが含みのある笑みを浮かべる。

 殺気を放ってきたと思えばからかったり、また面倒なのが入ってきたなぁ。


「酒ならしばらくは一階で我慢してくれ」


「えぇー、普通のエールやスタウトも飲みたいー。一階ってヘクトはハーブエールしかおいてないじゃない。私あれ苦手なのよぅ」


「ほう、ウチのウルフェルが飲めない、と」


 あ、マスターが怒っている。

 自家製のハーブエールに誇りをもってるからなぁ。


「エヴァ、今まで十字街は本当にただの駅だったんだ。遊ぶ所というか、街に必要な施設はゾフィーさんが手配してくれているから」


 ゾフィーさんに目線を送ると彼女は一つうなずきファイルを開きはじめた。


「いま難民の元の職業をリスト化しています。彼らが避難前と同じ職業につけるように支援をする予定です。ジャンヌの報告にあった難民の中つ人を優先的に支援して先に自立してもらいましょう。あ、あとエンツォさんのウルフェルにはリモネを絞っていれてください。慣れない人はその方が飲みやすいです」


 ゾフィーさんが資料を閉じ説明を終える。

 とどめの眼鏡クイッがとても様になっています。


「というプランがあるけど、二人ともどうかな?」


 一分の隙も無い解決案だ。

 当然ジャンヌもエヴァも右手をあげた。


——スッ


 マスター、あんた自分の作った酒なのに悔しくないのか。


——ススッ


 気がつけば全員が同意の挙手をしていた。


——スッ


「はい、全会一致でゾフィーさんの案通りました」


 乗らないという選択肢? あるはずないだろ。




    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


ゾフィーさん無双でした。

今回の話は小隊長たちのキャラ紹介も兼ねています。

つまり、次回もキャラ紹介+αです。



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