第58話【沼の巨人、上位種(2)】

「リオン!」


 アーチの根元に倒れ込むリオンに大声で呼びかけるも、障壁を抜かれてダメージを負ったのか、動く気配がない。


『Ugィィィッ』


 リオンにとどめを刺させるわけにはいかない。

 巨人の注意をひきつけ、強弓でうった長矢の雨を大楯からはなつ。

 魔法より速い物理の矢は予想外だったのか、巨人の下半身に五、六本矢がつき立った。


 追撃せずにショートソードを振りかぶり、攻撃の準備をする。

 すると巨人の足下の土が紫色に拍動し、次の瞬間には矢は地に落ち、巨人の右手は元通りになった。


 やっぱり回復には足下の魔素を使っているな。

 なら、地下の魔素を奪ってやる。

 

 身体強化の段階を上げ、巨人に近づき近接戦闘に持ち込んだ。


 ショートソードでは届かない所から来る重撃をかわし、回り込み肉薄し、一撃して離脱する。

 水柱もバックラーでいなし、ステップで避け、一進一退しながら露出した土の上をまんべんなく回った。


 そろそろ決めさせてもらう。

 ショートソードの切っ先を立て、バックラーを前に添えて両手で持つように構えた。


『ヴェント!』


 加速し、再び肉薄する直前、バックラーを前に突き出す。

 反射的に巨人は左手でバックラーを掴み、戦斧を振り上げてくる。


『Sェッ!』


 斧が振り下ろされる直前に右足をクロスして身体を開き、バックラーを捕まれたまま巨人の左側を身を低くしてすり抜ける。


——ズン。


 左手を引っ張られて転がった巨人は、いつの間にか切り落とされていた右手を見て力を込めるも驚愕し、戦斧も拾わずに距離を取った。


 右手を再生させようとして失敗したことに驚いたんだろう。



「お前が欲しい魔素はそこにはない」


なんとなく意味がわかったんだろう。巨人は歯をむき出しにしていた。


 戦闘で縦横無尽に移動する中、僕は日常的にやっている、収納の入り口である大楯を地中に埋めて移動し、地中の魔砂を吸い取っていた。

 魔砂は地中の魔素だ。

 もくろみ通り、巨人は回復できてない。。

 後は倒すだけだ。


 巨人は立ち上がり、それまでの牽制ではなく、本気で倒すために水柱を放ち迫ってきた。

 落ち着いて炎魔法で相殺する。

 たとえ魔物であっても、今の感情が恐怖であることは見て取れる。


 けれど、水柱を炎魔法で何回か相殺した瞬間、嫌な予感がした。

 湯気の向こうから見える巨人の顔が恐怖から嘲笑に変わっているように見えたからだ。

 強く踏み込み、湯気を払いながら剣を振るったけど、飛び退いた巨人の小指にしか届かなかった。


——パガッ


 予感は確信に変わる。

 飛び退いた巨人が放った鋭い水柱は僕の頭上後方に向かった後、鋭い破砕音が頭上で響いた。


 目の前の巨人の顔には嗜虐の色が浮かんでいた。

 お前と同じ事をしてやったぞ、と。


 駆けだした先では、要石を打ち抜かれたメインアーチが崩壊し、リオンの頭上に迫っていた。


「——————!」


 畜生が。

 書庫を隠そうとした自分への後悔、策がはまり勝ち誇ったした自分への嫌悪、リオンを失う恐怖、それらすべてを置き去りにして、僕はがれきの下に飛び込んだ。



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