第31話【夜襲と油断】


 カッター船を襲撃する事について皆の同意を取ったあと、一度目標から離れ、航路上の無人島に先回りしてかくれた。


「それで、どうやって襲う?」


 シルトとオルミナさんが僕の目の前に陣取って目を輝かせながらきいてくる。


「言っておくけど、私掠しりゃく行為は原則犯罪なんだから、ばれればクランの評判は間違いなく落ちるんだから気を引き締めてくれ」


 敵国の船を襲えば相手の力をそぐことができる。

 そこでどの国でも、敵国の船に限って海賊行為をすることを許している。

 敵国船の活動は敵国の武力を増強する準軍事行為である、という理屈だ。


「今回の襲撃の目的は金銭じゃなく、ファストプレーン男爵がアルドヴィン王国に内通している証拠を確保する事だ。第八の調べによれば、男爵はフランシスコ商会がアルドヴィン王国にバルド教の武器を運ぶのを賄賂をとって見逃している。ただしこれだけで内通しているとは言い切れないから物証と証人を確保するんだ」


「賄賂をもらう代官なんてありふれてるんじゃないの? それに代官が変わっても武器は分散されて運ばれているんでしょ? 根本的には武器の輸送は防げないんじゃないかしら」


 ミンシェンが疑問を口にする。

 これは地勢的な問題なのでミンシェンが気付かなくても無理はない。


「武器の輸送は防ぐ必要はない。でも内通者がグランベイにいたらまずいんだ。これから始まる独立戦争で万が一敗北した場合、ブラディア軍も僕たち【白狼の聖域】も、逃げる先は海しかない。コズウェイ、グランベイ、ロターのどれかの港を使って敗走する事になる」


 敗走という言葉で、皆に緊張が走る。


「そんなとき、最大の港であるグランベイの代官が裏切っていたら、僕たちは袋のネズミだ。アルドヴィン軍に追いつかれ、壊滅的な打撃を受けるだろう。【白狼の聖域】は自衛の意味でも事実を確認する必要があるんだよ」


 一息に話し、ため息をついた。


「はー、やらなきゃいけないことはわかった。船員を殺すのはだめなんだろ?」


 それができれば楽なんだけど、という言葉を飲み込み、僕はだまってうなずいた。

 シルトにはそれだけで通じたのかにやりと一つ笑った。


「それなら罪をかぶせる相手が必要だな」


「バーゼル帝国はどうだ? 実際この近くではバーゼル帝国の私掠船が出てくるから、襲われても疑われない」


 土地勘のあるショーンが案を出す。


「確かに帝国の私掠船のせいにできればいいけど、どうやってするんだ?」


「それなら丁度良いのがあるぞ」


 そういってシルトはポーチからそろいの武器と制服を取り出した。


「これって帝国の装備じゃねぇか! よくもってたな」


「帝国にいた時、バルド教の目から逃れるためにいろんな変装をしたからな。帝国の巡回兵に化けるのが一番楽だったぞ」


 ぼろいから兵隊崩れって感じだろ? とシルトは得意げに三角帽を目深にかぶった。



 目標の船は島から近い位置にイカリをおろしている。

 この近海は座礁の恐れがあるので夜は無理に航行しない。

 襲撃するにはうってつけだ。


 深夜の暗闇の中、近くの島の漁村で買い取った漁船を泳ぐビーコに引かせて目標に近づく。

 船からはかがり火の他に周囲を警戒する魔道具の光も見えた。

 襲撃しやすい場所なことは相手もわかっているということだ。


「オルミナさん、ありがとう。後は島でデニスと準備してて」


 オルミナさんが船から乗り移ると、ビーコは水面ギリギリを滑るように泳いで去って行った。


 船に残っているのは帝国兵に扮したショーンとシルトと僕だ。


「うーん、船を踏み割っていいなら跳べない距離じゃ無いな」


「そんな事をすれば一発で襲撃がばれるだろう。予定通り、静かに潜入して船長と男爵の部下を人質に取るぞ」


 それでもシルトは海に入るのを渋っている。

 暗い海を泳ぐというのがいやらしい。

 僕が大楯を使って加速するから魔獣に襲われる心配は無いって言ってるのに。


「しかたねぇな。ザートが俺達を担いで飛んでいくってのはどうだ?」


 ショーンが出した代案に、今度は僕の眉間にしわが寄る。


「できなくはないけど、空を飛べる帝国兵なんておかしいだろ。それに、僕の両肩に乗っている自分達の姿を想像してみてほしい」


「……シルト、おとなしく海に入るぞ」


「……ああ」


 二人とも舳先から音もなく海に入った。

 襲撃前に余計な時間をくってしまった。



 警戒している冒険者の配置はフランシスコ商会の船を護衛した時と同じだった。

 商会のマニュアル通りなのでやりやすくて助かる。

 海から上がった僕たちは彼らを薬で眠らせ、分散して船室に押し入った。


「な! 帝国兵だと⁉」


 入った船室の壁には目当ての紋章がついたマントがかけられていた。

 一発目であたりとはついている。

 驚いている男爵の部下を縛り上げ、帝国兵のカットラスを突きつけながら船室の外に出た。


「お、そっちがあたりか」


「航海士も確保出来たのは上々だ」


 別室から出てきたシルトに上々と言いつつ、嫌な予感がした。

 船長室に行ったショーンが戻ってこないのだ。

 ショーンはカットラスに不慣れだから戦う能力がない船長の捕縛に向かわせたのに。


「ちょっとこいつを頼む」


 縛り上げた男爵の部下をシルトにあずけ、船長室への階段を駆け上がる。


 半開きの扉を蹴破ると、うずくまるショーンと拳銃を構え、今まさに撃とうとしているスキンヘッドの男の姿が目に入った。


「チッ!」


 とっさに大楯を展開し、ショーンをかばう。

 青い光に銃弾が吸い込まれたのを見て男が目を見開く。

 そのすきに近づき男のみぞおちに拳をたたき込んだ。

 男に薬を嗅がせ、さるぐつわをし、そこで始めて深く息を吐いた。


「すまねぇ、しくじった……」


 まだ起き上がれない様子のショーンの足下にはこぶし大の岩が転がっていた。

 銃を運んでいる船の船長が銃をもっていないはずがない。

 冷静になればわかる事なのに、思い込みで行動した僕のせいだ。


「こっちこそ想定が甘かった。ごめん」


 少しの油断が命取りになる。

 ショーンを危険にさらしてしまった事を後悔しつつ、僕はショーンの腹に治癒魔法をかけた。





    ――◆ 後書き ◆――


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