第30話【海賊、はじめました】


 皆と合流した後、まず僕とシルトはアルバトロスに頭を下げ救出してくれたことを感謝した。

 事前に人体から魔素を抜くことが出来ると伝えていたとはいえ、オルミナさんは魔人になる危険をかえりみず救助に来てくれたのだ。


 その後ビザーニャに宿をとり、血殻を十分手に入れた事を話した。

 予定とは違うけど、これでビザーニャに来た目的は達成できた。


 その後は今回のような救出作戦が戦時にも起こる事を想定し、信号弾の運用や竜騎兵による救出方法について話をした。

 救出任務については竜騎兵の固定給を上げる事で話がついた。

 金銭面で双方納得するのは大事だ。


 けど、今その金銭で僕とアルバトロスがもめている。


 一般的に、クランの団員は拠点を共有し、時に依頼を合同で行うけど、基本的に報酬は団員のものになる、いわば独立採算制だ。

 【白狼の聖域】では技術部や竜騎兵隊など一部団員に固定給をはらっているけど、それは特殊なケースにあたる。


「だから俺らは竜騎兵隊の固定給でもうけてるんだから、ビーコの餌になる肉以外はいらねぇよ」


「それだと困る。これはクランのためでもあるんだよ。ギルドの立ち会いのもとでシーサーペントの革をクランが高額で買い取る。これで真竜ビーコの強さを国内外に示すと同時に、クランの資本力を見せつける事ができるんだ」


「そりゃそうだけどよ。七百五十五万ディナはたかすぎだっつの」


 クランの独立採算制は所属パーティがイレギュラーに行った魔獣の討伐にも適用される。

 つまり、入手した蛇竜シーサーペントの死体二十体と鳥竜シーゲイルの死体五体の所有者はアルバトロスだ。

 それなのにアルバトロスがクランのものといって受け取ってくれない。


 ちなみにビーコが竜種を食べる件については皆認めることにした。

 人間の都合で竜種の本能を縛るのはおかしい、という意見でまとまったからだ。


「うーん、話がまとまらないなら、金額はしばらく保留にした方が良いんじゃないかな」


 それまで話を聞いていたリュオネが口を開いた。


「それだと世間に高額で買い取ったって事実を広められないんじゃないか?」


 壁に寄りかかっていたシルトの疑問にリュオネは首を振ってこたえる。


「七百五十五万ディナは冒険者にとっては高額だからクランの宣伝になるけど、国にとっては出せない金額じゃないんだよ。真竜の希少性、象徴性に値段をつければ、アルドヴィンに引き抜きの口実を与えることになるんじゃないかな」


 細い顎に指を当てて思慮にふける今のリュオネは皇族の目をしている。

 敵国がどう動いてくるかに焦点をあてて考えている。

 一つの行為を複数の立場から検証する戦略眼に思わず唸ってしまった。


「うん、リュオネの視点は大事だと思う。アルバトロスが離れるなんて思ってないけど、アルドヴィンにかき回されるのは勘弁だ」


「俺らがビーコを使い潰そうとしたアルドヴィン側につくなんてありえねぇけど、金額を隠して宣伝するってのはアリだとおもうぜ」


 こうしてリュオネのおかげで素材売買の問題は解決したので、素材の用途に話がうつった。

 ミンシェンの話では、シーサーペントの革なら高い耐水耐火性能をもった良い防具が作れるとの事だ。

 量もあるので、小隊単位の運用もできそうだけど、このあたりはウィールドさんやクローリス達と話し合ってもらおう。


「なんですか?」


 話し合いに加わらず、シルトの六花の具足のシリンダーをいじっているミンシェンを見ると無愛想な返事が返ってきた。

 アクの強い技術部でやっていけるかと一瞬思ってたけど、大丈夫だなきっと。


   ――◆◇◆――


 宿に一泊して野宿の疲れを癒やした後、ブラディアへの帰途についた。

 シルトとミンシェンが加わったけど、ビーコは全く問題ないらしい。

 竜種の肉を食べたせいか、行きよりむしろ元気だ。

 見た目もどこか精悍せいかんになり、魔力もみなぎっている。


「ワイバーンと違って全然揺れないんだな」


「真竜は魔力もつかって飛ぶらしいからな。快適だろ?」


 シルトとショーンが後ろで色々話している。

 行きでぐったりしてたのは誰だったかとショーンに訊きたくなったけどやめておこう。

 シルトは僕にとっては一番古い友人だけど、クランでは新顔だ。

 ミンシェン共々はやくなじんで欲しい。


「ミンシェン大丈夫? ホーリーワーツの丸薬いる?」


「うぅ……さっき飲んだからいいです……」


 下を向いて魔道具ばかりいじっているからだ。

 リュオネとデニスに介抱されているミンシェンを見て思わずため息が出た。



「ザート君、ちょっと来て!」


 オルミナさんが防寒マスクを外して僕をよんだ。

 なんだろう?


 最前列に歩いて行きオルミナさんが指さす方を見ると、フランシスコ商会のカッター船がみえた。


「あの航路なら行き先はグランベイのはずよ。ファストプレーンの部下が乗り込んでいる可能性があるけど、どうする?」


 サティの報告でファストプレーン男爵がフランシスコ商会からわいろとして銃と弾丸を得ているのはわかっている。

 あの船に乗っている男爵の部下を捕まえてしまえば証人として色々つかえる。

 船は奪うか沈めた事にしてしまえば誘拐されたと男爵に警戒される事もないはずだ。


 僕自身フランシスコ商会に雇われていた事もあり、商船の防衛力については理解している。

 それにファストプレーンの部下に手練れがいない事も確認済みだ。


「襲いましょうか。身分がばれないのが大前提ですけどね」


「ふふ。海賊稼業なんて、うちの商売もずいぶん手広くなったものね」


 オルミナさんが愉しそうに笑う。

 お金儲けはついでですよ?







    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます


主人公、海賊王にはなりませんけど堂々と襲撃宣言をします。

大航海時代のイギリス提督も元海賊ですし、そういうものと考えていただければ幸いです。


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