第29話【竜種達の戦い】


 曲刀を思わせる凶暴なくちばしを持った鳥竜が壁に群がっていた。

 ツノヘビの巣穴らしい岩の割れ目に頭を突っ込んで追い出し、外に出た所を捕まえついばんでいる。

 完全な包囲網だ。ああ壁に群がられてはこっそり逃げるわけにはいかない。

 例え頭上を飛び越えても、見つかればしつこく追いかけられるだろう。


「おい、どうする。戦うか?」


 シルトが隣で六花の具足のカートリッジ筒を入れ換えながらきいてくる。

 確かに戦うことはできる。

 例えばリヴァイアサンのブレスを使えば一気に倒す事はできるけど、それだと地下祭壇や竜の墓場を破壊しかねない。


 このまま連中が立ち去ってくれるのを期待したいけど、それも無理だ。

 僕たちは広場の中心に開けた穴に隠れている。

 今のところ鳥竜達は、ツノヘビを好き放題に食べているから気づかないけど、飽きれば周囲を歩き回り始めるだろう。

 ミズチより小型な鳥竜は祭壇の間にも余裕で入ってこれる。


「くそ、こっちにくる」


 歩き回っていた鳥竜の一匹が僕たちが隠れている穴に気付いたようで、頭を上下させこちらに向かってくる。


「ここに閉じ込められればじり貧だ。外に出よう」


 近づいてきた鳥竜は動きを止め、首をかしげてこちらを見ていたけど、つぎの瞬間には空を向き、耳障りな高音で一声ないた。

 周囲の仲間が一斉に振り向き、何の感情も見えない視線が向けられる。


「ロックシュート・ケントゥリア!」


 地面にそそり立つ百の石でできた牙を半円状に展開させ、鳥竜の行く手を阻む。

 最初に歩いてきた斥候の鳥竜は石の防御柵に切れ目がないか右往左往していたが、回り込めないのがわかるといらだたしげに鳴いた。

 

 それを合図に他の鳥竜もいっせいに鳴きだした。


「うるせぇ奴らだな。まるで俺達を食うのが当然の権利だって主張してるみたいだぜ」


 シルトが一言毒づくけど、やっぱりこの数を相手取るのは無謀だ。

 前に作った試作弾をつかおう。手を打つなら今だ。


「シルト、耳ふさいでろ!」


 魔鉱拳銃に試作弾を込め、上空へ向けて発砲した。

 鳥竜達の鳴き声が可愛く思えるほどの不快な金属音と共に魔弾は空へと昇っていく。


「ロックウォール・デクリア&モート!」


 音により止まっていた鳥竜のすきをついて十重の石壁と即席の堀を作る。

 中にとびこんだ直後、殺意をともなった鳴き声に石壁が破壊されていく音がした。


「集団で風のブレスとか、ありかよ……」


 堀から顔を出すと、鳥竜の群れが粉々に破壊したロックシュートの柵を踏み越えてくるところだった。


「できるかは五分五分だけど、各個撃破するしかないか」


 シルトが悲痛な声で武器を抜こうとするけど、僕はそれを手で制した。


「いや、助けは呼んだ。このまま滝までさがるぞ」


 読みが正しければあと二回くらい持ちこたえれば僕らの勝ちだ。

 鳥竜が跳び越えられない絶妙な距離に石の牙を生やし、ブレスを誘発する。

 同時に堀に跳びこんで防御を固め、ブレスが終わったら後ろへと後退する。


「おい、もう後が無い」


 後ろに広がる天空を見てシルトが顔を引きつらせる。


「大丈夫、僕が飛び石で空を駆ける事が出来るのは知ってるだろ?」


「今度は全方位から襲われるだろ。まさかシーサーペントの巣に跳びこむつもりか?」


 僕はそれに答えず、鳥竜の頭の向こうに見えた影を見つめる。

 いくら水中を移動する術があるからといって水中で蛇竜と戦うほどうぬぼれていない。

 遠くに見える影の正体がわかりほっと息をついた。


「その可能性はたった今消えたぞ」


「可能性あったのかよ⁉」


 軽口を叩いても、実際この目で見るまでは不安だったのだ。


 高速で飛来し、空中で身体を起こした真竜は着地した直後、先ほどの鳥竜達のブレスを吹き飛ばすような重低音の咆哮を上げた。

 背中に乗るのはオルミナさんだ。

 試作弾を撃ったら駆けつけてくれるように頼んでおいたのだ。


 けれど時間は無い。この魔素に満ちた空間で彼女が活動できるのは数分が限界だ。

 そう思って見ると、ビーコの身体が二回りもふくらんでいた。

 周囲の魔素もごっそりと減っている。


「やってくれ!」


 有無を言わさずシルトを担ぎ滝に身を投げ出した。

 危険を感じ、我先に空に飛び立つ鳥竜達が下から見えた。


「「「ピィギ!!!」」」


 次の瞬間、濃密な魔素で凶悪になったビーコの氷弾ブレスが鳥竜の群れを一瞬で肉塊に変えた。

 頭上に降ってきた肉塊をとっさに収納するけれど、残りが滝の水と一緒に海へと落ちていく。


 息をつく間もなく、疾風が下を向く僕の腕をかすめていった。

 ビーコが滝壺に向かってまっすぐに飛びこもうとしている。

 急いで追いかけると、ビーコは滝壺を背に鳥竜の首をくわえて周囲をいかくしていた。


 視線の先にある海からは何体ものシーサーペントが顔を出している。

 シーサーペントはテリトリーを犯した者に容赦はしない。

 海棲魔獣の天敵である火属性のブレスを吐いて殺しにかかってくる。

 一難去ってまた一難か。

 一方ビーコもやる気は十分なようだ。

 

「ザート君、こっち!」


 オルミナさんに呼ばれ、急いでビーコの背に隠れる。

 それと同時にその場の竜のすべてが顎門を開いた。


 轟音とともに二十匹近いシーサーペントによる炎の塊がビーコに向かう。

 けれどそれらのことごとくが口を開けたビーコの前で消えてしまった。

 見えないけれどビーコの口からは極冷ブレスが放たれている。

 シーサーペントのブレスも熱を奪われ消えてしまったのだろう。


 あまりのことにあ然としているのか、シーサーペントは動かない。

 ビーコがおもむろに海面を尻尾で打ち付け均衡を破ると、海面が一気に凍り始めた。


 逃げるシーサーペント達を氷の矢が追いかけ、次々と氷の津波が飲み込んでいく。

 ビーコが勝利の雄叫びを上げた時にはシーサーペントはすべて氷漬けにされていた。

 浄眼でみても体表に魔力は無い。

 間違いなく死んでいる。


 鳥竜でも蛇竜でも、亜竜程度じゃ瞬殺か。

 場所を選ぶ必要があるけど、真竜のブレスはやっぱり怖いな。


「ありがとうございますオルミナさん。助かりました」


「いいのよ。何か異常があったら駆けつけるって手はずだったんだから」


 まだ目の色は赤くなっていないけど、濃い魔素に身をさらしたせいでオルミナさんの顔色は悪い。

 申し訳なく思いつつ、急いで魔素を抜いていく。


「ん? なにやってるんだビーコ」


 さっきからカリカリ音がするので下を見ると、ビーコが足下の氷をひっかいていた。

 透明な氷の下にあるのは戦いの直前までビーコがくわえていた鳥竜の肉塊があった。

 ああ、ブレスを吐く時には顎を開かなきゃいけないからね。

 そりゃ海ぽちゃもするよな。


「ビーコ、助けてくれてありがとう。お礼に帰ったらそいつは溶かしてやるから、今は帰ろうな」


 オルミナさんから魔素を抜く作業が終わってもまだ悲しそうに鳴くビーコをみて、僕は肉とシーサーペントの群れが入った氷を収納する準備を始めた。






    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます


前回、今回と戦闘回(あるいは怪獣同士の戦いに巻き込まれる回)

でしたが、いかがでしたでしょうか。




★評価、フォローをぜひお願いします!


★評価、フォローが入ると、

 →作者のモチベーションが上がる

  →話のストックがたまる

   →毎日更新が途切れない


エピソードの安定供給のため、なにとぞお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る